「“辛い体験のおかげで強くなれた”って、ムカつくんですよ」寺地はるなが『雫』で描いた“怖がらなくてもいい”未来
小説家になって改めて自分を振り返って見つけた仕事論
――多くの著書を出す中で、自分に対して新たな発見や変化を感じることはありますか? 寺地 最初は、取材やサイン会などのイベントで緊張していたんです。上手に喋ろうとしていたんですね。でも自分を良く見せようとすると、思ってもないことを話し始めちゃって、そうするとだんだんと自分の声が小さくなるんです。言ってることに自信がないから。 そういう失敗を何度も体験するうちに、自分への期待値を下げるようになりました。喋った内容が、今の自分の限界。うまくいかなくても、「自分なんてこんなもんや」って思うようにしたら、そこまで落ち込まなくなりましたね。
読者の年齢に合わせた楽しみ方を見出して
――今後はどのようなことに挑戦していきたいですか? 寺地 今作では時間を遡って書くことに挑戦しました。新作でも同じように、新しいことにチャレンジしていきたいです。2025年3月にU-NEXTで掲載していた短編連載を長編に直して出版予定。それに別冊文藝春秋で連載中の『リボンちゃん』も2025年夏ごろに出る予定です。 ――最後に、読者に向けて一言いただけますか。 寺地 『雫』は45歳から15歳の登場人物が出てくるお話です。45歳より上の年齢の読者は、「自分はどうだったかな」と過去を振り返るきっかけにしていただければ。 10代の読者は、もしかすると「先々に大変なことが待っているんだな」と身構えるきっかけになるかもしれません。作品に出てくる問題は、何とかなったり、ならなかったりします。でも、怖がらなくてもいいんだなと思ってくれたら最高です。そこまで私が口を出す権利は、ないかもしれないですけど。 》インタビュー【前篇】に戻る 寺地はるな(てらち・はるな) 1977年佐賀県生まれ、大阪府在住。2014年『ビオレタ』でポプラ社小説新人賞を受賞してデビュー。2021年『水を縫う』で河合隼雄物語賞受賞。『川のほとりに立つ者は』『わたしたちに翼はいらない』『こまどりたちが歌うなら』など著書多数。2019年からは「署名っぽいサインで寂しいから」と、サインの隣にウサギのキャラクター・テラコを記している。
ゆきどっぐ