【光る君へ】なぜ、為時は10年も無官だったのに「越前守」に抜擢されたのか? 漢詩が「宋人との交渉」に役立った!?
紫式部を主人公としたNHK大河ドラマ『光る君へ』。最新話では藤原為時(岸谷五朗)が越前守の職を得た。これはどういう状況なのだろうか? 淡路守という下国への派遣でがっかりした為時の意を汲んだ天皇や道長が、為時の任地替えを行ったというのが一般的な見方である。しかし、実はそれには裏があったという興味深い説もある。いったい、どういうことなのだろうか? ■淡路国から越前国への任地替えには裏があった? 「苦学の寒夜 紅涙襟をうるおす 除目の後朝 蒼天眼に在り」 こう自らの心情を綴った詩を一条天皇に奏上したのが、紫式部の父・藤原為時である。寒い夜にも耐えて勉学に励んできたものの、人事異動で希望する官職に就くことが出来ず、赤い血の涙が袖を濡らすほど絶望しています……と、苦しい胸の内を詩に託したのである。 10年もの長きにわたって散位、つまり無官のまま耐え忍んできた悲運の身。そこに、ようやく訪れた任官の知らせである。もちろん、大喜びしたのはいうまでもないが、派遣先を知って、ガックリうなだれた。下国ともいうべき淡路国だったからである。つい、グチをこぼしたくなったとしても不思議ではなかった。 淡路守といえば、従六位下相当である。以前任じられていた式部大丞でさえ正六位下相当。五位以上なら位田からの実入り(位禄)の他、余録も相当期待できたが、六位とあっては、さしたる収入は見込めそうもない。長年にわたって金銭面で苦労してきた為時としては、切羽詰まった思いがあったのだろう。 この苦々しい思いがたっぷり詰まった為時の詩を、一条天皇が詠んで感涙。その思いを道長が忖度したことで、任地先が変えられた…というのが、一般的な見方である。除目(官吏や地方官を任命する儀式)の三日後には、早くも越前守に任じられていた源国盛を道長が口説いて辞職させ、その上で為時を越前守に任じ直したという。天皇をも涙させた為時の詩の力量に、誰もが驚いた……と締め括られることが多いようである。 ところが、実のところ「この話には裏がある」と見なす向きも少なくない。ここでは、その声にも、耳を傾けておきたいのだ。