「国民連合政府」構想は「オリーブの木」になるのか?
「国民連合政府」構想をめぐって、共産党の積極的な発言が目立ちます。成立した安保関連法を廃止に追い込むために野党連立政権を目指すものですが、志位和夫委員長は、この構想が実現した場合、党綱領の「日米安保条約の廃棄」は求めない考えを示しました。共産党の呼びかけに対し、いまのところ民主党は態度をはっきりさせてはいませんが、小沢一郎氏は賛意を示しています。 【写真】野党の主張する「政権交代で安保法廃止」は実現できる? 安保関連法の採決前には、法案に反対する若者らが国会を取り巻きデモを行ったことが注目され、「60年安保」と重ねあわせる向きもあります。共産党が打ち出すこの構想は、今後の日本政治にどのような影響を与えるのか。政治ジャーナリストの田中良紹氏に寄稿してもらいました。
「60年安保」と「2015年安保」
「60年安保」と「2015年安保」は似ているようで本質が全く異なる。「60年安保」は、1951年に結ばれた旧安保条約が日本を属国扱いする不平等なものであったのを変え、基地の提供の見返りに米軍に日本防衛の義務を負わせる双務性を持たせた。岸元首相は野党社会党の支持も得て「対米自立」を図ろうとした。 ところが58年の総選挙で大勝した岸政権は数の力で法案を押し通そうとするようになり、その強権的な姿勢に反発した野党と国民が広範な反対運動を引き起こす。従って反対運動は岸元総理が退陣すれば収束した。 これに対して今回の「集団的自衛権の行使容認」は国民が求めた課題ではない。アメリカの年来の要求を安倍政権が受け入れ、「対米自立」ではなく「対米従属」の姿勢によって「歴史的転換」が図られた。
「血は流さず経済に特化」した保守本流
かつて日本は世界に先んじて平和国家となる事を誇りにした。吉田茂元首相は1949年の施政方針演説で日本が非武装国家になる事を宣言している。ところが翌年、朝鮮戦争が勃発するとその夢は破られ、アメリカが日本とドイツに再軍備を要求し、特に日本には30万人規模の軍隊を作るよう命じられた。 ドイツは要求を飲んで再軍備し徴兵制を敷いた。しかし吉田は軍隊を持つことを禁じた平和憲法を盾に要求を拒否する。平和憲法を作ったのはアメリカである。アメリカはやむをえず警察予備隊を創らせ、それが後に「戦力なき軍隊」と呼ばれる自衛隊になった。ここに欺瞞に満ちた戦後日本の安全保障政策が始まった。 吉田はアメリカがアジアの戦争に日本人の血を流させようとしている事を見抜いていた。そのため「60年安保」でも集団的自衛権の行使が含まれていないことを確認した後に岸を支持する。日本の保守本流は日本人の血を流さず、軍事負担を極力減らして経済に特化する事を国是とし、集団的自衛権を認めない憲法解釈を続けてきた。 安倍政権は保守本流が築き上げた路線をアメリカの要求に従って転換し、国民の同意を必要とする憲法改正なしにそれを強行した。可能とさせたのは与党に大量議席を与えた選挙結果である。従って状況を変えるには与党の議席数を減らすしかない。 「60年安保闘争」は岸元首相の退陣で収束したが、「2015年安保」で反対運動に立ち上がった国民は、安倍首相を退陣させられないばかりか、憲法違反の疑いがある安保法案を廃止する事も出来ないでいる。