<上海だより>世界一地価の高い廃墟話題 “制度の歪み”が示す中国の行く末
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上海中心部のやや北側、蘇州河沿いはかつて工業地帯でしたが、今では高層マンションやギャラリー街、クリエイティブ系オフィスなどに再開発されています。特に、川沿いのマンションは人気が高く、今年にはさらに地価が上がったことで1平米あたりの地価は平均8万元を超え、一部屋2000万元ほどの高級マンションもあるほどです。その一帯ですっぽりと穴が開いたように瓦礫の区画があります。それが、いま世界で最も地価の高い廃墟、と称され上海で話題になっている「光復里」です。
付近の蘇州河沿いは緑地化が進み、実に快適な小道が続いており、周りには立派な造りのマンションが建ち並んでいます。その道沿いに歩いていると突如として瓦礫の一帯、光復里が見えてきます。2014年にはすでに開発に伴う立ち退きの通知が出ていたそうですが、今もなお多くの人たちが立ち退きを拒否し、光復里に留まっているそうです。
今年に入って、開発側から郊外の嘉定区の新しいマンションへの転居をサポートするという提案がなされましたが、中心部から郊外への転居に加え、完全サポートではなく不足分は自己負担という点から、合意には至っていません。
高級マンションの横に突如、古い住宅地区の入り口がある
また、光復里は1930年代から40年代に作られ、今まで二代にわたってずっと住み続けているような高齢の方も多いようです。こうした立ち退き話にはつきものですが、現実的な金銭的問題もさることながら、お金では解決できない部分も多いはずです。
一見廃墟に見える光復里ですが、まだ実際に人々が住んでいるため敷地内では野菜や肉も売られており、小さい飲食店も営まれています。とにかく、付近の高層マンションと比較した時の差が激しいですが、彼らの生活もまたリアルな上海です。
この光復里は象徴的でこそありますが、上海ではこの他にも同様の事象は数多く、そこには不動産権利の帰属に関する問題が存在しています。そもそも社会主義国家である中国、今でこそ土地使用権を持つことができますが、所有権はやはり国家にあるのです。住人の方々の気持ちには苦渋も多いかとは思いますが、これこそが中国が現在抱える社会制度の歪みでもあるのです。国家として経済成長を進めるには開発を止めるわけにはいきませんが、そもそも国家を支えている制度との摩擦を避けられない事態も生じてしまうのです。本件は2年も交渉がこじれていますが、どのような形でこの問題が解決するのか。場合によっては、中国社会の今後の行く末も見えてくるかもしれません。