乃木坂46「チートデイ」振付師 LICO、アイドルを輝かせるダンスの極意 齋藤飛鳥への衝撃も語る
アイドルにとって、“ダンス”は楽曲の世界観をより魅力的な形で伝える大事な要素だ。ときにかわいらしく、ときにカッコよく、歌って踊るアイドルを何倍にも輝かせることができる。 【画像】神宮で井上和が見せるとびきりの笑顔 乃木坂46の最新シングル表題曲「チートデイ」でも、“チートデイポーズ”をはじめとしたキャッチーで真似しやすい振り付けが随所に盛り込まれ、楽曲の魅力をより一層際立たせている。そんな本作の振り付けを手掛けたのが、D.P dance studio所属の振付師 LICOだ。ほかにも「おひとりさま天国」「ごめんねFingers crossed」「I see…」など、曲名を聞いてすぐにポーズを真似できるような印象的な振り付けの数々を作り出している。 そこで、キャッチーな振り付けの源泉に迫るインタビューを行った。これまでの経歴からアイドル楽曲を担当するまでの経緯、乃木坂46メンバーとのエピソードや振り付け制作秘話までたっぷり語ってもらった。(編集部) ■AKB48から始まったアイドルの振り付け ーーダンスとの出会いについて教えてください。 LICO:いちばん最初の出会いはTRFさんです。小中学生くらいのときに「Overnight Sensation ~時代はあなたに委ねてる~」をテレビで見て、「踊ってみたい」と思いました。サビは簡単なんですけど間奏がちょっと難しくて、家でひとりで苦戦しながら見よう見まねで踊っていた記憶があります。 ーーその時点ではすぐに習いたいとかではなかったんですね。 LICO:はい。まずはコピーしてみようみたいな。そこから安室奈美恵さんやDA PUMPさん、SPEEDさんなどが出演するテレビ番組を全部録画して、家で練習する日々を送っていました。高校生の頃には、クラスの友達に「ダンスをやりたい」と言ってたんですよ。そしたら松戸のダンススタジオで習えると友達から聞いて、「じゃあ行ってみよう」みたいな。見学した当日にすぐスタジオに入ることを決めて、そこからダンスを本格的に習い始めました。 ーーダンスを仕事にしていくまでの流れについても教えてください。 LICO:そのスタジオに指導に来ていたダンスの先生が、当時安室奈美恵さんの演出などをやられていた方だったんですよ。その先生が発表会で私が振り付けしたものを見て、「この振りって誰が作ったの?」みたいなことになったんです。「あ、はい、作りました」と(笑)。「これ何かを見て作ったの? 何かの真似をしたの?」と聞かれたので、「想像で作りました」と答えたら、「ちょっと私のところ来ない?」と引き抜きのような形で、その方のもとでより本格的にダンスを勉強するようになりました。18歳ぐらいのときです。『紅白』(『NHK紅白歌合戦』)や鈴木亜美さんのバックダンサーをさせていただいたり、avexの新人さんを任せていただいて初めて振り付けの仕事もしました。 ーー18歳とは早くから活躍されていたんですね。 LICO:そのavexの新人さんのあとは玉置成実さんのバックダンサーをやっていました。そんなときに、先生から安室奈美恵さんのバックダンサーのオーディションの話をいただいたんです。オーディション会場に行ったら、参加者が1000人以上いて「うわ、やばいかな」と思いました。そのオーディションをTRFさんが仕切っていたんですよ。「ついに会えた!」と思って(笑)。5次、6次審査ぐらいまであって、最終的に5人だけ受かりました。そのなかに私も入れて、「ついに大きなステージでバックダンサーになれる!」と思いました! ただ先生の話とは違って浜崎あゆみさんのオーディションだったんです(笑)! ーー安室奈美恵さんと聞いていたのに(笑)。 LICO:はい(笑)。でも浜崎さんのステージもとても素敵なので心がワクワクでした! そこから浜崎さんのツアーダンサーになったのが23歳くらいの頃です。そのあと、ツアーが終わる頃に安室さんのバックダンサーや振り付けの仕事をいただいて、浜崎さんと並行しながら3年間くらい活動をしていました。 ーー「私はダンスで生きていこう」と決心したのはいつだったのでしょうか。 LICO:18歳ぐらいのときにもう高校を辞めちゃったんですよ。ダンススクールの発表会がありすぎて、衣装代とかも親に頼れるわけでもなかったので、バイトで稼ぐためには学校に行っている時間なんてないと。なので18歳ぐらいのときにはもう、この道で行くしかないと決めていました。 ーーアイドルの仕事を始めたのは、どのような経緯からだったのでしょうか。 LICO:私を引き抜いてくれた先生が、AKB48の劇場公演の振り付けを何曲もやっていたんです。そのお手伝いをする形でアイドルの現場に参加しました。最初は2曲くらいをサポートする予定だったんですが、先生に別の大きな仕事が入ってしまって、まるまる引き継ぐことになって。メンバーからも「LICOちゃんがいい」という声をいただいて担当することになったんです。 ーーアイドルとのかかわりはAKB48からだったんですね。 LICO:はい。けど当時は「どうやったらアイドルがかわいく見えるか」とか、まだそこまで考える余裕がなくて、ダンサー目線で考えていたんです。これまで安室さんなどダンスの実力者を担当することが多かったので、アイドルとなるとどこまでやっていいのかなみたいな。いま振り返ると、自分が納得できる振り付けではなかったと思うのですが、当時は死に物狂いでしたね。 ーーメンバーによってダンスの実力も違いますよね。 LICO:そうなんですよ。実力差があるし、大人数だし。ただもともと“構成”が好きだったんですよ。フォーメーション全体として、どうやって見えたら面白いかなみたいな。それが昔から好きだったので、やっと自分のやりたいことができるという感覚はありました。 ーーひとりの踊りではなく全体で見せるところの面白さですね。 LICO:昔、姉がフォーメーションを組みながら演奏するブラスバンドをやっていたんです。子どもながらに「すごく面白そうだな」と思っていて。幼稚園生とか小学生ぐらいのときに憧れていたことをやっと実現できる、というのが楽しくてどんどんアイドルの振り付けにハマっていきました。 ■初対面で感じたAKB48と乃木坂46の違い ーー乃木坂46の振り付けはどのような経緯で始まったんですか。 LICO:乃木坂46の運営の方から直接連絡が来ました。振付師を探していたときに、AKB48の制作を担当していた映像会社の方から紹介があったみたいです。『16人のプリンシパル』(乃木坂46の舞台公演)に招待いただいてスタッフの方とお会いし、振り付けを依頼いただきました。初めて担当したのは「でこぴん」(2013年)という楽曲です。 ーー振り付けをレクチャーするときに初めてメンバーとお会いしたと思いますが、どんな印象でしたか。 LICO:白石(麻衣)は「めっちゃ美人だな」と思ったのと、橋本(奈々未)が椅子に座ってご飯を食べながら寝てたんですよ(笑)。その姿をめっちゃかわいいと思って、すぐメロメロになりましたね。 ーー「でこぴん」は5人でのユニット曲でしたが、初めての全体表題曲は7thシングル「バレッタ」(2013年)です。グループとしての印象はいかがでしたか。 LICO:AKB48と全然違うなと思いました。おとなしいというか、清楚というか。教えに行った瞬間から雰囲気の違いを感じました。当時はやっぱりAKB48と比べると、(キャリアも違うため)踊れないイメージもあったんですよ。だから必死に頑張っているという空気もありました。 ーー振り付けを考えるときもAKB48よりちょっと踊りやすいものにしたりとか、意識はされていましたか。 LICO:しましたね。あと「バレッタ」のときは運営側で考えているイメージが明確にあったので、その雰囲気に近づける作業でした。そのイメージをメンバーに反映したときにかわいく見えるように考えました。 ーーそれでは最新作「チートデイ」について聞かせてください。印象的な“チートデイポーズ”など、LICOさんの振り付けはキャッチーでオリジナリティがあると思っています。どんな流れで振り付けを考えたのでしょうか。 LICO:一度運営サイドと方向性の打ち合わせがありました。お互いに案を出し合ったりしたんですが、実は今回の振り付けでいちばん困ったのは〈よろしく〉の部分なんです。 ーーサビの最初の部分ですね。 LICO:サビに向けて楽曲がどんどん盛り上がっていくのに、〈よろしく〉の部分で歌詞のリズムの取り方がゆっくりになるんです。そのままいってくれたらテンポ良くいけるんですが、落ちるんです。ムズーと思いながら、すごく考えました(笑)。(敬礼のポーズをしながら)〈よろしく〉とかありきたりな振りになるのは嫌だなと思っていて、「チートデイ」なら歌詞のなかではご飯のことは言ってないけど、“ご飯を食べた後”からスタートしようかなとひらめいたんですよ。それでちょっと口元を拭くような振り付けからスタートすることにしました。ごめんなさい(両手を合わせる振り付け)の直後にこのチートデイポーズを持ってきたいなと思ったんです。チートデイポーズに関しては“片思いハート”の意味もあったり、「Cheat Day」の“c”と“d”を顔の横にもってきたらかわいいだろうなって。フロントに5期生が3人もいるから、フレッシュになるんだったらこれぐらいいっちゃったほうがいいかなみたいな。〈ズル休み〉という歌詞の部分は、「みんなには内緒にしてね」って意味で人差し指を唇にあてる振り付けにしました。〈授業をエスケープ〉のところは、カッキー(賀喜遥香)に先生役をやってもらって、みんなで授業を受けている画を作っています。