乃木坂46「チートデイ」振付師 LICO、アイドルを輝かせるダンスの極意 齋藤飛鳥への衝撃も語る
「おひとりさま天国」「I see…」「車道側」など人気曲の振り付け制作秘話
ーー振り付けはどんなときに思いつくんですか。 LICO:運転しながら車の中で作ることが多いです。停止中に上半身を動かすことはできるんですよ。周りで見てる人からは「何してるんだろう」と思われているかもしれないけど(笑)。意外とクリエイティブなんですよ、運転してる時って。「車道側」(2024年)も運転しながら作りました。 ーー「車道側」の振り付けも印象的です。 LICO:「車道側」のときはTikTokでの踊りやすさをすごく意識しました。全部上半身で完成するものを運転しながら考えたんです。この振り付けはセンターがあやめちゃん(筒井あやめ)だったから生まれましたね。TikTokにあやめちゃんがポンって出てきたらかわいい感じがして。あと両サイドもなおなお(冨里奈央)とさつき(菅原咲月)だったので、この3人でこういう振りを踊ってたらかわいいなというところから発想しました。サビの親指を動かす振り付けは、歌詞に合わせて幼馴染の“つかず離れず”という関係性を表現しています。 ーー顔まわりの振り付けを意識的に取り入れているんですね。 LICO:かわいい振りを作るときは絶対に顔の近くにします。あと極力顔の左側を向けるようにしています。女の子は左向きの顔の方がかわいい子が多いんですよ。センターの子にも毎回「どっちの顔がいい?」って聞きます。振り返る向きをどっちにしたいとか、多分本人が気に入ってる向きがあるから。基本は左側が多いですが、本人が右と言ったら右から振り返る振り付けにしています。 ーー最初に「チートデイ」の振り付けをメンバーに見せたときはどんなリアクションでしたか。 LICO:かわいいって言ってくれました。自信満々で提案しているわけではないので、そういう反応をもらえるとやっぱり嬉しいですね。これでかわいくなるかなとか、本当はもっとよくできる振りがあったんじゃないかな、とか常に自分が振り付けしたものに満足することはあんまりなくて。でもいつもメンバーが踊った瞬間に正解だったんだ、かわいいってなるんですよね。 ーーシンガポールでのMV撮影にも同行されたのでしょうか。 LICO:行きました。振りは入っているので、その場で立ち位置を決めたりとか。MVでは1サビを5期生だけで踊ってるんですよ。そうなるとフォーメーションが全部変わるので、メンバーもその場で新しいフォーメーションを覚えます。暑いなかでの撮影でスタッフも汗だくだったんですが、メンバーは誰も文句を言わずに何度も踊っていました。本当にすごいなと思いましたね。 ーー5期生の対応力もすごいですね。 LICO:本当にすごいです。5期生も最初は全然できなかったのに、いまは言ったことをすぐにやってくれるので日々成長が見えます。 ーー『真夏の全国ツアー2024』にも行かれていましたが、「チートデイ」もパフォーマンスされていましたね。どんな気持ちで見守っていましたか。 LICO:やっぱり嬉しいという感情がいちばんですね。ライブを観てやっと自分の振り付けを認めることができるというか。ファンの方が「今回の振り付けいいよね」とかSNSなどで言ってくださったり、そういった反応は見れるんですけど、やっぱりライブの空間でお客さんが楽しんでいるのを見ると「振り付けできてよかったな」とあらためて思えます。 ーーほかの楽曲のお話も聞かせてください。「I see…」についてはいかがでしょうか。 LICO:「I see…」に関してはサビ先行で考えました。コロナ禍だったので、とにかく楽しく、簡単でみんなが覚えやすくて、気持ち的にも上がる感じの振り付けがいいなと。〈君のことが好きだ〉の部分のポーズは、歌詞にぴったりだと思って「愛してる」という意味の手話を取り入れてみました。 ーー振り付けを作る段階で、センターやメンバーなどは共有されているのでしょうか。 LICO:ちゃんと共有されています。やっぱり人によって雰囲気がぜんぜん変わるので、メンバーと楽曲と歌詞を組み合わせながら考えています。例えば、「ごめんねFingers crossed」もさくちゃん(遠藤さくら)だったからあの振り付けになりました。人差し指と中指をクロスさせる手のポーズを入れてほしいと、運営サイドから要望があったので、どうやったらカッコ良く見せることができるのかを考えて、上から降ろす振り付けにしました。 ーー「ごめんねFingers crossed」は冒頭のフォーメーションから印象的です。あの構成もセンターが遠藤さんだったからこそなのでしょうか。 LICO:そうです。背中を向けながら歩いていく瞬間も、さくちゃんだったら絶対にカッコ良く見えるだろうなと思いました。さくちゃんが風になっていて、みんながその風を受けているようなイメージです。 ーー「おひとりさま天国」も印象的な振り付けが多いです。 LICO:「おひとりさま天国」も最初、サビの〈おひとりさま天国〉の人差し指を回す振り付けは全然違う動きだったんですよ。最初は「天国」だったので、顔の横で“天使の輪”を作るように人差し指を上に向けて、同じ箇所で回すような振り付けでした。でもちょっと人をバカにしているようにも見えるよね、など運営サイドといろいろ話し合いをするなかで、現在の少し動きをつけた振り付けに決まりました。 ■安室奈美恵と並び立つ齋藤飛鳥のダンス ーー乃木坂46のダンスの特徴はどのような部分にあるのでしょうか。 LICO:いままではやっぱりしなやかさだったり、綺麗、儚いという点が楽曲だけではなく振り付けでも表現されていたんですが、5期生が入ってから雰囲気が変わった気がします。いままでの“THE 乃木坂46”という感じから、ちょっとポップになったというか。「チートデイ」の振り付け指導に行ったときに、フロントに5期生が3人入ったことでこれまでとは違う雰囲気を感じました。 ーー単純に明るくなったとかそういうことではなく。 LICO:フレッシュなんですよね。あと今回は小川彩がフロントにいたことも大きいかもしれません。最初に会ったときから、私含めて振り付けを教えに行ってるメンバーみんなで「彩ちゃん、今日かわいかったね」って話しちゃうくらい本当にかわいくて(笑)。真面目だし、やることはちゃんとやるし、すごくいい子ですね。 ーーいままでかかわってきたアーティストのなかで、特にダンスが魅力的だなと思った方はいらっしゃいますか。 LICO:安室奈美恵さんと齋藤飛鳥です。 ーー斎藤さんはどんなところが魅力的だったんですか? LICO:もともと上手かったですし、ダンサーとしてしっかりレッスンをしたら、結構いいところまでいくんだろうなとは思っていました。彼女は、アイドル的な見せ方ではなく、ダンスそのものの見せ方が上手なんです。卒業のときに本気で「ダンス踊らないの?」って言いましたもん。私も彼女がダンスを踊っている姿が本当に好きだったから。ソロで何かやってみればって。女優さんなのか、本人のやりたいこととは別なんだろうとは思いましたけど、それを聞いて嬉しそうにはしていました。 ーーダンスの“上手い”の基準というのはどこにあるのでしょうか。 LICO:歩いてる瞬間とポーズした瞬間。動きと動きのあいだを見てると上手さがわかるんですよね。こうやって歩くんだ、腰から出てるんだとか。その時の体のラインだったり、本当にちょっとしたことなんですけど。一個ずつちゃんと見せてるというか。だから“隙の量”なのかな。上手い人ってあんまり隙がないんです。動線というか、動きの軌跡がすごく綺麗なんです。 ーーダンスを教えるというのは、メンバーとコミュニケーションをとっていく作業だと思いますが、気をつけていることや意識していることはありますか。 LICO:この子最近なんか雰囲気よくなったなとか、かわいくなったなとか、ダンス上手になったなとか、そういうことはきちんと伝えるようにしてます。私は性格的に嘘もつけないし、ゴマをするとかも苦手なので素直に言っちゃうんですよ。良いものは良いと言いますし、逆に良くないと思うところも、しっかりと伝えています。 ーー最後に今後の目標を教えてください。 LICO:これからも乃木坂46をはじめ、いろいろなアイドルやアーティストの振り付けでクオリティーを上げていきたいのと同時に、声優さんやVTuberさんの振り付けもやってみたいです! 今後もできるところまで、良いものが作れなくなるまでは続けたいので。私の振り付けを踊ってくれる人が増えたらいいなって思っています。
伊藤聡志