「無機質さに違和感」死刑に立ち会った元法相 ブラックボックス化する死刑制度に投じた一石
「死刑反対」でも執行命令、矛盾の裏に思い
そう話す千葉さんは、野党時代から死刑制度の廃止を訴えてきた。しかし、死刑執行命令にサインするつもりがないなら法相を引き受けるべきではないとの考えで、打診を受けた後は「覚悟を持って法相に就任した」と言う。 死刑を執行した際は、廃止運動の関係者などから批判された。死刑執行を命じたことは「私の中の矛盾の最たるものかもしれません」と言う。 現在も「死刑制度は反対という考えは変わっていない」と明言する。では、なぜ矛盾する判断をしたのか。千葉さんは「(死刑の)廃止でも存置でも、何か皆さんの議論を進めていくことが私の役割だと考えた」と話した。
「小石か砂利でも」投じた一石の意味
千葉さんは執行後の記者会見で自らが立ち会ったことを説明し、刑場の報道機関への公開と、死刑制度の在り方を検討する法務省内の勉強会設置を決めた。「死刑についての議論をするにも、あまりに情報がなさすぎる」という疑問が、踏み込んだ対応につながった。 法相在任中、千葉さんは死刑執行の順番をどう決めているか、法務官僚に質問したことがあった。基本的には刑の確定順だが、心身の状態や再審請求などを勘案しているとの説明を受けたものの、具体的な基準や選定者は「はっきりせず、よくわからなかった」と明かす。 刑場公開後も、法務省は死刑に関する情報公開に後ろ向きで、国会での議論も進んでいない。勉強会は、存廃両論併記の報告書をまとめたのみで終結した。死刑は「ブラックボックス」のままであり続けている。 「私が投じた一石は、小石か砂利だったかもしれません。しかし、情報を公開した上で、国会や市民が刑罰の在り方を考えることの必要性は、今も変わっていないと思います」。千葉さんは、言葉に力を込めた。
「国は逃げるな」 死刑停止求めた元裁判員
そうした思いは、東京地裁の裁判員だった田口真義さん(48)も同じだ。2009年に始まった裁判員制度では、市民が死刑の選択を判断することもある。「国は死刑の判断に関われと言いながら、その実態を何も伝えていない」とし、2024年5月に死刑の執行停止と情報公開の徹底を求める法相宛ての要望書を提出した。 同様の要望書は2014年にも提出したが、法務省からは何の反応もなかった。 「人々が死刑の実態を知ることで、漠然とした賛成意見が揺らぐのを恐れているのではないでしょうか」。田口さんはいぶかりながら、こう話す。「情報を公開して議論をしてこそ、刑事政策が正当性を持ちます。国は逃げるべきではありません」