「無機質さに違和感」死刑に立ち会った元法相 ブラックボックス化する死刑制度に投じた一石
情報世に出ず「特ダネ」だった死刑執行
死刑執行について、法務省は情報を公開しない姿勢を長らく続け、1998年11月になって、ようやく執行の事実を人数のみで発表するようになった。それまでは、どの死刑囚に死刑が執行されたかは、報道各社の「特ダネ合戦」の対象になっていた。 2007年12月に、執行された死刑囚の氏名、生年月日と犯罪事案および執行場所も公開されるようになり、執行後には法相が臨時記者会見を開いて、これらを説明している。しかし、執行に至る検討内容や「なぜこの死刑囚を選んだのか」という理由、執行の様子などは、死刑囚の遺族に不利益が生じ、死刑囚の心情の安定を害するとして、一切明らかにしていない。 内閣府の2019年の世論調査では、80%余りが「死刑もやむを得ない」と回答し、死刑制度を維持する理由として、法相などがしばしばこの調査結果を引用している。しかし、死刑についての情報がほとんどない中での調査に基づく数値が「民意」とされている、との指摘も根強い。ある法相経験者は「執行の実態を知れば、死刑に対する世論は変化するだろう。それが嫌で、法務省は情報を公開しないのではないか」と話した。
【取材後記】
「お答えを差し控える」。2018年7月、オウム真理教の元幹部13人に死刑が執行された際、上川陽子法相(当時)は臨時記者会見で事実関係を読み上げると、執行の詳細に関する記者に質問に同じ回答を繰り返した。その数は7人を執行した6日は15回、6人を執行した26日は10回にのぼる。 過去の法相も、在任時に行った死刑執行の記者会見で、執行対象者を選んだ理由については説明を避けている。「お答えを差し控える」はもはや常套句だ。しかし、死刑執行という究極の国家権力を行使した責任者の姿勢として、疑問はぬぐえない。 いつ、誰を死刑に処するかの権限は事実上、法務官僚に握られており、執行の状況も含めて、外部からの検証を加えることはできない。 自らの考えとの矛盾に悩みながら執行命令書にサインをし、執行に立ち会った元法相の千葉景子さんは、インタビューの最中、何度も思い詰めるように考える仕草をした。死刑執行を見届けた経験は、一生頭の中から消えることはないという。 後任の法相たちが口にする決まりきった回答からは、千葉さんの思いが引き継がれているとは考えられない。死刑がブラックボックスであり続けている根底にあるのは、法相としての責任感の欠如だ。 ※この記事は、共同通信とYahoo!ニュースによる共同連携企画です