データ不足が問題なのに「血液検査はかえって不安を」と後ろ向きな環境省。PFAS対策の「戦略」はどこへ
汚染を引き起こす場所は分かっているのに……
汚染を引き起こすのは、①泡消火剤を使用していた基地・空港、PFASを製造または使用していた工場、③使用済み活性炭などの産業廃棄物、に大別されることがわかっている。 にもかかわらず、環境省ははじめから汚染源の特定は難しいと結論づけるかのように、「特定することが難しい場合には、飲用からの曝露防止を」との留保を書き添えている。あたかも飲まなければ問題ないとも受け取れるような意図がにじむ。 これに対して、柴田康行委員(国立環境研究所名誉研究員)が声を上げた。 「過去に使われたころに発生源があると想定して集中的に調べるべきではないか」 世界の化学メーカーがかつて結んだ「PFOAの製造・使用禁止」に関する協定に加わっていた企業は国内に4社あり、泡消火剤を製造していた工場も判明している。基地や空港以外にも、半導体や繊維、自動車製造などの工場で使われてきたことは明らかだ。 PFOS・PFOAは少なくとも10年前には使われなくなっているにもかかわらず、経産省は「競争上の地位を損なう恐れがある」として、企業名を明らかにしていない。 平田健正座長(和歌山大学名誉教授)は「(汚染源調査にあたる自治体に)より具体的に示すことは考えらないかと」と問い、企業を所管する経済産業省、基地を担当する防衛省、食品を担う農業水産省などと省庁横断の連絡会議を開いてはどうか、と投げかけた。 環境省は「各種の課題に応じて情報共有している」と答えた。
環境省が消極的な理由とは
消極的とも言える理由について、ある環境省関係者はこう解説する。 「事実上、産業廃棄物の後始末を担うだけで、許認可権をもたない環境省は霞ヶ関でもっとも弱い省庁のひとつです。その環境省がイニシアチブを取って省庁横断的な組織をつくるかというと現実的ではない。政治にその意思があれば別ですが」 データに加え、戦略の欠如を印象づける指摘は、ほかにもあった。 「PFOS・PFOA以外のPFASの規制こそ、一番やらなければならない。研究者に任せていては限界がある。国がサポートしてほしい」(広瀬明彦委員=化学物質評価研究機構顧問) 「対策が多岐にわたるため、経済的な視点からの検討が必要ではないか」(谷保佐知委員=産業技術総合研究所・環境計測技術研究グループ長) 会議終了後、専門家会議の委員のひとりはこう漏らした。 「これだけの研究が海外で行われながら、まだ健康への影響が明確に示されていないということは、それほどまでに毒性の強い物質ではないということでしょう」 こうした認識が、環境省のPFAS対策にも通底しているのだろう。 環境省によると、有害性などに関する7件の研究が走り始めている。ただ、いずれも2024年から3年間に及ぶため、結果がでるのは先になる。また、妊婦とこどもを対象とした「エコチル調査」は採血から7年たっても成果は2件しか発表されておらず、血中濃度のデータは公表されない。 データ不足が解消されないなか、「PFASに対する総合戦略」はいつ検討されることになるのだろう。
諸永裕司