存続の危機だった秋田銀線細工「おばあちゃんのアクセサリーだった」伝統的工芸品を絶やさない「TOUROU」の挑戦
──小川さんが長年携わるファッション業界は、基本的に春夏と秋冬で年に2回は新作のコレクションを発表するのが通例です。時間をかけることに抵抗はありませんでしたか? 小川さん:バングラディシュのラナ・プラザ崩落事故を取り上げた映画『ザ・トゥルー・コスト』で知られるようになったとおり、そのサイクルは工場の人達の過酷な労働環境や大量廃棄を生み出す一因になっています。消費されるだけのブランドにはしたくなかったので、商品ではなく作品を作りたいと強く思いました。伝統工芸は驚くほど丁寧にものを作り上げていく世界なので、そういった面でも秋田銀線細工に惹かれました。
──だから「TOUROU」は完全受注生産なんですね。 小川さん:ものづくりを始めるからには、大量生産・大量廃棄はしたくなかったので。一つひとつ手作業のため、大量に作れないこともありますが、職人さんの労働環境にも配慮したブランドにしたかったんです。サンプル制作でもしっかりお支払いをしたいし、10個頼んだら1個安くしてみたいなことも、安価で適当なものを大量に作ってもらうような職人さんに失礼なお願いは絶対したくなかった。職人さんとはWin-Winな関係でいたいですし、「TOUROU」の商品は佐藤さんの作品。一生大事にしてほしいという思いも込めて、完全受注生産にしたのは自然な流れでした。
──業界のサイクルに乗らないのは、販売するうえで弱点にはなりませんか? 小川さん:百貨店の催事に参加した際、商品に興味を持ってくださったお客様がいました。注文からお届けまで2~3か月ほどかかるので、その場でお渡しができずキャンセルされるかなと思いましたが、注文してくださいました。最近は受注生産のブランドが増えていますし、ものを大切にする方向に時代が変わってきていることも大きいでしょうね。 ──お客様のマインドも変わってきていて、完全受注生産も受け入れてもらえているんですね。