「10億越えの好物件」を相続したはずの「資産家兄弟」が行方不明…赤坂2丁目の駐車場が《アパホテル地面師事件》の舞台に選ばれた衝撃の「経緯」
今Netflixで話題の「地面師」...地主一家全員の死も珍しくなかった終戦直後、土地所有者になりすまし土地を売る彼らは、書類が焼失し役人の数も圧倒的に足りない主要都市を舞台に暗躍し始めた。そして80年がたった今では、さらに洗練された手口で次々と犯行を重ね、警察組織や不動産業界を翻弄している。 【漫画】「しすぎたらバカになるぞ」…性的虐待を受けた女性の「すべてが壊れた日」 そのNetflix「地面師たち」の主要な参考文献となったのが、ノンフィクション作家・森功氏の著書『地面師』だ。小説とは違う、すべて本当にあった話で構成されるノンフィクションだけに、その内容はリアルで緊張感に満ちている。 同書より、時にドラマより恐ろしい、本物の地面師たちの最新手口をお届けしよう。 『地面師』連載第49回 『「大都会の狭間にぽっかりとあいた異様な空間」...アパホテルが騙された12億の地面師事件の現場となった土地の“奇妙な変遷”』より続く
突然の売買登記
万安樓に土地の所有権が移ってから44年も経た2013年8月7日、とつぜん駐車場の売買登記がなされた。有り体にいえば、それが今度の事件のはじまりだ。 「事を知ったのは、まさに勝手に登記がなされていた頃、駐車場のお客さまからの一本の電話でした。お客様が、この土地を買ったという人から『この先、ここに車を停めてもらっては困るので、移動させてくれ』と突然言われたらしい。それで、『いったいどうなっているのですか』と電話がかかってきたのです。こちらにしても、何のことかわからない。それは驚きましたよ」 そう打ち明けてくれたのが、当の資産管理会社だ。電話で初めて事態を知ったという。 もとの所有者である鈴木善美には仙吉と武という2人の息子がいた。父親である善美の死後、息子たちへの相続がなされないままだった。44年ものあいだ有限会社万安樓の所有になってきたからだ。
行方不明の資産家兄弟
不動産ブローカーたちのあいだでは、仙吉と武の兄弟がくだんの土地を相続したものとされてきたが、万安樓そのものが鈴木家の資産管理会社なので、そこが所有し、管理すること自体は問題でもない。だが、その一方で、一等地を相続したと信じられてきた資産家兄弟は、長らく行方知れずのままだとも伝えられた。地面師にとっては、まさにそこが付け目だったに違いない。 計画を立案したのは、おそらく名うての司法書士、亀野だったのだろう。資産家兄弟の情報を聞き込んだ。鈴木善美の息子のうち、兄の仙吉は1926(大正15)年生まれで2018年当時で92歳だった。また3歳違いの弟の武は、29(昭和4)年生まれなので89歳だ。鈴木兄弟は高齢のため認知症で施設に入所していた。 地面師グループがそれを知っていたかどうか、そこは定かではなく、実は兄弟が行方不明になっているという見当違いから、犯行を思いついたのかもしれない。ただし、それは地面師グループにとってどちらでもいいことだ。真の持ち主と買い手の連絡が取りづらい状況にあることが好都合なのである。
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