乳牛にとっての''あたりまえ''。『ワイルドミルク』が生む循環型酪農
── 配合飼料をやめた結果、乳量にはどんな変化がありましたか? 山本 いきなり配合飼料をゼロにするのは無理なので、徐々に減らしていきました。最初は1年に8キロあげていたんですけど、毎年1キロずつ減らしていって、2009年には配合飼料ゼロを実現できたんです。その結果、搾れる乳量は減りました。もともとは1頭が1年間に9500キロくらいの乳を出していたのが、今は3500キロくらいです。 配合飼料を買わなくなった分の費用は浮くようになりましたけど、従来のように搾った分を農協に買ってもらうというスタイルの酪農では生活ができないので、自分で売っていくために『養老牛放牧牛乳(ワイルドミルク)』というブランドを作りました。そこからマーケティングの勉強や営業活動をして、販路を広げてきたという流れです。 ── 完全放牧にしてからは、牛乳の質的な変化もありましたか? 山本 牛乳って、実はまだ知られていないことが多くて。僕が新規就農した頃は、不飽和脂肪酸(※1)が多い牛乳が健康にいいとされていたんですけど、ここ10年くらいで不飽和脂肪酸にはオメガ3(※2)が豊富に含まれていることがわかってきて、それが健康にいいという見方に変わってきました。グラスフェッドミルク(放牧で育てた牛の牛乳)は、オメガ3が豊富なんですよね。 うちは牛に余計なものを与えていないので、なんとなく健康にはいいだろうなとは思っていましたが、エビデンスはありませんでした。自分で「きっとこっちのほうがいいだろう」と思ってやってきたことが、あとから科学的な分析を経て確信に変わったという感じです。 ※1......一般的に、動物性の脂肪に多く含まれるのが「飽和脂肪酸」、植物性の油や魚油に多く含まれるのが「不飽和脂肪酸」。有機栽培の飼料や放牧によって育てられた牛の牛乳には、通常の牛乳に比べて不飽和脂肪酸が多く含まれるとされる ※2......オメガ3系脂肪酸は、動脈硬化の防止やコレステロール・中性脂肪の値を下げるなどの効果があるとされている