プーチン大統領と金総書記、包括戦略条約に署名 「侵攻」に対し相互支援
テッサ・ウォン、BBCニュース ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記が19日、どちらかの国が「侵攻」された場合は相互に助け合うとする条約に署名した。 プーチン大統領はこの日、平壌で金氏と会談した。終了後、条約について発表した。プーチン氏の訪朝は2000年以来。 金氏は、この条約が両国関係を「新たな、高いレベルの同盟関係」に引き上げると述べた。 今回の条約は、両国間で急速に発展し、西側諸国を憂慮させているパートナーシップを強固にするものだ。また、影響は世界全体に及び得ると、複数の専門家はみている。 相互防衛の条約は、どのようなものでも、朝鮮半島で将来的に紛争が起きた場合、ロシアが北朝鮮を支援することにつながり得る。また北朝鮮が、ウクライナで戦争を進めるロシアを公然と支援できるようにもなる。 北朝鮮はすでに、ロシアに武器を供給していると非難されている。一方、プーチン氏は北朝鮮に対し、ミサイル開発を支援する宇宙技術を提供しているとみられている。両氏は昨年9月にロシアで会談している。 両氏が19日に署名した「包括的パートナーシップ条約」には、どちらかの国が「侵攻された場合は相互支援」を提供することで合意したとの条項が含まれていると、プーチン氏は説明した。何をもって「侵攻」とするか、プーチン氏は明らかにしなかった。 プーチン氏はここ数カ月、ウクライナの戦場で困難に直面している。特に武器の枯渇が問題となっている。昨年9月に金氏がロシアを訪れた際の首脳会談では、軍事協力について協議し、武器取引で合意したとの見方が広がった。以来、ロシアが北朝鮮製ミサイルをウクライナに配備していることを示す証拠が続々と見つかっている。 一方で、アメリカなど北大西洋条約機構(NATO)加盟国はここ数週間で、ウクライナが西側の武器をロシア国内への攻撃で使うことを認めた。重大な決定であり、ウクライナはこれで戦況が好転すると期待している。 プーチン氏は、これが深刻な結果をもたらすと警告している。先日も、西側の敵対勢力に長距離兵器を供与することを検討していると述べた。長距離兵器は、北朝鮮が開発を進めているものだ。 プーチン氏は19日にも再び、西側の決定を批判し、国際的に義務づけられている規制への「重大な違反」だと述べた。 プーチン氏は同時に、ロシアと北朝鮮に対する西側の制裁についても問題視した。両国が「脅迫や絶対的命令の言葉を容認することはない」とし、西側の「覇権主義」維持を目的とした「制裁による締め付け」に対抗し続けると述べた。 一方の金氏は、今回の条約の締結を、両国関係における重要かつ歴史的な瞬間だと称賛。さらに、ウクライナでの戦争に関して、ロシアへの「全面的な支持し連帯」を表明した。 この日の条約は韓国の怒りを買うだろう。韓国は首脳会談に先立ち、ロシアに対して「一定の段階を超える」ことのないよう警告していた。 韓国のチャン・ホジン国家安保室長は、ロシアの同位の高官に対し、「ロシアがウクライナとの戦争を終わらせた暁には、ロシアにとって北朝鮮と韓国のどちらがより重要になるかを考慮すべきだ」と伝えたのだった。 米シンクタンク「スティムソン・センター」で韓国プログラムのシニアフェローを務めるレイチェル・リー氏は、今回のような条約は「地域および世界にとって重大な意味」をもつと述べた。 朝鮮半島で新たな紛争が起きた場合にロシアが介入する可能性があるほか、「北朝鮮がロシアに武器供給を続け、ロシアが北朝鮮に高度な軍事技術を提供すれば、私たちは世界規模の(武器の)拡散問題に直面することになる」と同氏は言う。 北朝鮮情勢の専門サイト「NKニュース」のチャド・オキャロル氏は、今回の条約に含まれている条項は、北朝鮮の兵士らがウクライナでロシアを支援する可能性を含め、紛争に絡む協力への扉を開くことになるかもしれないとX(旧ツイッター)に投稿した。 プーチン氏の訪朝は、19日午前3時ごろという予定より遅い到着で始まった。専用機から降りると出迎えた金氏と抱き合った。費用を惜しまない様子の、赤カーペットを敷いた豪華な歓迎ぶりが目を引いた。 プーチン氏は、中国の習近平国家主席が宿泊したのと同じ、クムスサン(錦繍山)迎賓館へと案内された。北朝鮮の国営メディアは、街灯や建物の光で照らされた首都の姿を映し出した。常に電力不足に苦しむ貧しい国なだけに、かなり印象的な映像だった。 19日昼の歓迎式典は、徹底的に演出されたもので、北朝鮮のプロパガンダ映像がふんだんに使われた、熱狂的な支持の光景にプーチン氏は迎えられた。北朝鮮ではよくある演出で、参加した何十万人の多くはおそらく、指示されて集まったものと思われる。 プーチン氏が乗った車は、完璧な隊列のオートバイの警官隊に伴われ、ロシアの国旗や花束、プーチン氏の写真を振る人々で埋め尽くされた平壌の通りを、滑るように通り抜けた。「ようこそプーチン」、「北朝鮮ロシア友好」といった声がかけられた。 金氏の祖父で、金政権創始者の金日成(キム・イルソン)氏にちなんで名づけられた金日成広場では、両国の国旗の色を身にまとい、等間隔に並んだ群衆がプーチン氏の到着を待っていた。プーチン氏が車から降りると、人々は歓声を上げ、風船を空に放った。 白い服を着た子どもたちがプーチン氏を出迎えた。「白」は北朝鮮社会の純潔を象徴する色。プーチン氏と金氏は、白馬に乗った兵士たちの列の横を通り過ぎた。金氏の祖父が日本軍と戦った際、白馬に乗って軍を率いたとされることを意識した演出とみられる。 二人はその後、この歓迎行事を見下ろすように近くの建物に掲げられた、高さ数メートルの荘厳な自分たちの肖像画の前に立ち、足を伸ばしながら行進する兵士たちを見渡した。 続いて、プーチン氏は歓迎の音楽会と、国賓としてのレセプションに出席。レセプションの夕食会には、白い花の形に整えられたタラ、朝鮮風の麺、高麗人参とカボチャ入りのチキンスープなどが用意された。 一連の歓迎行事は、プーチン氏が19日遅くにヴェトナムへと専用機で向かったことで幕を閉じた。その前に両首脳は贈り物を交換した。プーチン氏は2台目となる高級車「アウルス」を贈り、金氏を乗せてひと走りした。1台目は金氏がロシアを訪問した際に贈っている。 プーチン氏はさらに、セレモニーで最高司令官が持つ短剣とティーセットを金氏に渡した。金氏はお返しに、プーチン氏の肖像が描かれたとされる美術品数点を贈った。 プーチン氏が前回、平壌を訪れたのは2000年だった。政権を握ってからわずか4カ月後のことで、金氏の父親の金正日(キム・ジョンイル)氏と会談した。 それから24年がたち、北朝鮮の経済は国際的な制裁によって一段と機能不全に陥っている。多くの専門家らは、金氏が食料、燃料、外貨、技術などの重要な支援を「旧友」のロシアに要請したとみている。ロシアはソヴィエト連邦時代、金一族の政権を支える重要な役割を果たした。 昨年9月に金氏がロシアを訪問した際、プーチン氏は北朝鮮の衛星開発を支援すると約束した。アメリカは、北朝鮮の人工衛星計画について、弾道ミサイルの能力を高める目的もあるとみている。それらは技術的に共通点が多いからだ。 専門家らは、両首脳が外交利益やソフトパワーの獲得も意図していると指摘する。 ジェイムズ・マーティン不拡散研究センターのディレクター、ジェフリー・ルイス氏は、「(両首脳は)アメリカのと別のネットワークを作り、友好国や協力国と共に、国際的な制裁の痛みを軽減しようとしている」と指摘する。 これがひいては、アメリカと西側同盟国が主導する現在の国際秩序に代わるものとして、ロシアや中国などの国々が推進してきた「多極化」の世界観を強化することになると、複数の専門家らはみている。 (追加取材:ジョエル・ギント、ケリー・アン、ジェイク・クォン) (英語記事 Putin and Kim pledge mutual help against 'aggression')
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