大きな地震が起きるとなぜ「流言」が広がるのか?
4月14日夜に最大震度7を記録した前震から始まる「熊本地震」。その発生直後から、TwitterなどのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)では、「動物園からライオンが逃げた」「避難所の小学校で肉100キロを焼くバーベキューをやる」などの流言(デマ)が広がりました。1923年の関東大震災でも、朝鮮人が暴動を起こしているとの噂が広がり、2011年の東日本大震災でもさまざまな流言が確認されています。このように大震災が起こるとなぜ流言が広まるのでしょうか。その防止策はあるのでしょうか。 【写真】熊本県河原小学校避難所、「うちは『待つだけの避難所』ではなか」
「流言」と「デマ」は違う?
まず「流言」の定義について紹介します。社会心理学者で東京大学情報学環の橋元良明教授によると、(1)実態を持つある人物や組織、事象をめぐる、(2)パーソナルコミュニケーション(口コミやネットなど)による、(3)私的で、(4)責任の所在が明らかでない、(5)一過性での、(6)未確認に、広がっていく事柄(情報)を指します。誰かが、わざと広げようとしているのではなく、その内容について確信している場合もありますし、半信半疑ながら話題に出して、結果的に広がっていくこともあります。 ちなみに「デマ」は、誰かが嘘だと分かっていて意図的に広げていくものです。それが広がっていくと、デマを本当だと信じて広める人もいるので、デマも広い意味では流言に含まれると解釈されることもあるようです。
「もっと大きい地震が」どこの国でも広がる流言
そんな流言ですが、なぜ発生し、どのような形で広がっていくのでしょうか? 橋元教授は、情報へのニーズと供給のバランスの不均衡が原因だとし、「情報を欲しがるニーズが突出しているのにもかかわらず、行政やマスメディアなどの信頼できる機関からの情報が少ない。このような場合、人は不足分を補おうと私的情報も交え、流言として広めるのです」と、そのプロセスを紹介しました。 さらに橋元教授は、このように流言を広めてしまう人間心理にも触れます。これを、(1)感情のカタルシス、(2)感情の正当化(曖昧感情の帰属)、(3)運命共同体意識の形成心理、(4)情報専有に関する優越感の誇示、(5)情報の確認・交換と、大きく5つに分類しています。 まず、感情のカタルシスです。人はとても緊張していたり不安になっていると、そのストレスを話すことで解消しようとします。不安などを自分の中に溜め込まずに、話すという行為で外に吐き出し昇華できるのです。さらにこのカルタシスには、敵意や反感の発散も考えられます。もともとある特定の対象に潜在的な敵意があった場合に震災などが起こると、ドサクサにまぎれてその対象にぶつけて発散しようとする心理や、原因不明の事象と日頃の差別意識とが合わさることで「あいつらが震災の原因じゃないか」とスケープゴート的に原因を押し付ける、ということがあるようです。 特に大震災などの災害時に多い心理が、感情(不安)の正当化です。人は漠然とした不安があったとき、その理由が分からないと落ち着きません。なんと自分で不安の原因を探し出して自身を納得させようとする傾向があるのです。 この心理について橋元教授は興味深い指摘をします。「実は大震災のときは、実際に被災した人はあまり流言を流しません。被災地周辺の人で、自分は被害に遭っていなけれど、『また地震があるかもしれない』とフワフワしている人が広めやすいのです」(橋元教授)。場合によっては、自分で流言を作り出してしまうこともあります。大震災が起きると、必ずと言っていいほど「もっと大きな地震がくる」という再発流言がどこの国でも広まっているのです。 これまでの震災においても、必ずと言っていいほど流言はあります。その理由は、非常に大きな災害被害状況では社会的緊張が生まれ、個人のみならず集団で興奮状態になることが考えられています。このような状況だと普段の日常的な規範は崩れ、バカバカしい内容でも信じる気分に陥ってしまいがちなのです。 情報の供給が圧倒的に足りなくなることも要因です。建物が被害に遭って物理的に情報が取れなかったり、行政も被災者になっているので混乱して十分な情報を発信できない状況になりやすいのです。