ガザ戦争とICC:「法の支配」貫く最後の砦に
国家主権の壁と弱者の尊厳
ネタニヤフ首相への逮捕状請求は、各国に対し、力による現状変更や許し難い非人道行為を国際法に基づいた「法の支配」で規律する覚悟を問うている。その規律は国家主権のベールを突き通すからこそ、時に各国の政治的思惑と齟齬(そご)を来たし衝突する。しかし、政治的思惑から独立しているからこそ、強国のパワーバランスの狭間で理不尽に奪われてきた人々の尊厳を回復できる可能性を持つ。 この構図はすなわち、脆弱(ぜいじゃく)さを抱える国がICCを必要とする一方、強国ほどICCに反発する構図へと反映され、それは加盟国分布にも如実に表れている。 翻って日本は、経済も安全保障も相対的に安定した強い基盤を持ちながらも、ICC加盟国として大きな貢献をしてきた。同時に、自国の政治的思惑を押し付けず国際約束を守る国としてかけがえのない評価を獲得してきた。だからこそ、「民主主義」の押し付けでミシン目ができた世界を、人道的な「法の支配」で癒し包摂することができるのだ。 国際社会において、この「法の支配」を貫徹するため、最後は主権のベールを突き通してでも弱者の尊厳を回復するためのインフラがICCである。このICCは、政治の不条理から独立して使命を全うすればするほど、存在感は増し、しかし存在基盤は揺らぐ。それでもなお、どの国のどの時代に生まれても、人間は人間らしく扱われなければならないことの司法的保障機関として、国際社会はますますICCを必要としている。このICCの独立と判断に対する尊重を提唱し、行動で示す。これがいま、日本に求められている時代の役割といえるのではないか。 おりしも赤根ICC所長が6月10日、所長就任後初めての来日を果たし、政府要人との会談や若者との意見交換に臨む。激動のICCを率いるリーダーとして、日本に届けるメッセージに耳を澄ませたい。
【Profile】
菅野 志桜里 弁護士、一般社団法人・国際人道プラットフォーム代表理事。仙台生まれ、東京育ち。東京大学法学部卒業後、検察官に任官。2009年より3期10年衆議院議員を務め、待機児童問題・皇位継承問題・憲法問題・人権外交などに取り組む。「人権外交を超党派で考える議員連盟」アドバイザー、対中政策に関する国際議員連盟IPAC(Inter-Parliamentary Alliance on China)日本ディレクターでもある。著書に「立憲的改憲」(ちくま新書)。