アングル:ノースボルト破綻で遠のく中国勢、狂った欧州の電池戦略
Marie Mannes Alessandro Parodi Stine Jacobsen [ストックホルム/グダニスク(ポーランド) 22日 ロイター] - 電気自動車(EV)用電池を手がけるスウェーデンの新興企業ノースボルトが経営破綻したことは、EV充電用に独自のリチウムイオン電池産業を立ち上げようとする欧州の計画に打撃を与えた。また、新興企業が中国の競合に追い付くのに苦戦する中で、投資を呼び込むためにより努力が必要との議論も巻き起こした。 ドイツの大手自動車メーカー、投資家や債権者との資金調達交渉が不調に終わったのを受け、ノースボルトは21日に米連邦破産法11条の適用を申請した。「石油を歴史に変えよう」をスローガンとして掲げるノースボルトにはフォルクスワーゲン(VW)、米金融大手ゴールドマン・サックスがそれぞれ約2割出資していた。 ノースボルトは22日、来年3月末までの完了を目指す経営再建プロセスで、10億─12億ドルの新たな資金調達が必要だと説明している。 同社はこの数カ月間、財務基盤を改善するために事業を縮小し、人員削減を進めてきた。一方で高品質の電池を十分生産することに苦戦し、今年6月にはドイツ大手自動車メーカー、BMWとの20億ユーロ(21億ドル)の契約を失っていた。 ノースボルトは近年、内燃機関の自動車からEVへの転換を進める欧州自動車メーカーに電池を提供するために数百億ドルを投資し、欧州の新興企業群をリードしてきた。 しかし、EV需要の伸びは業界の多くの予想よりも緩やかに推移している。中国がEV用電池で大きくリードしており、国際エネルギー機関(IEA)によると電池のセル生産量で中国が世界の85%を占めている。 化学エネルギーを電気に変換して貯蔵する電池とセルの製造工程は繊細で、大規模に手がけることはどの電池メーカーにとっても大きな挑戦だ。 ロイターは17日、ノースボルトはスウェーデン北部のセル工場で社内目標を達成できず、生産を縮小したと報じた。 コンサルティング会社パーマー・オートモーティブの創設者アンディ・パーマー氏は「最大の問題は電池の製造が容易ではないこと、そしてノースボルトが顧客の需要を満たしていないことだ。それは経営上の問題だ」とし、「中国は技術的に欧米より10年進んでいる。それが事実だ」と指摘した。 今年になって中国の電池メーカーの蜂巣能源科技(SVOLT)や、自動車大手ステランティスとメルセデス・ベンツの合弁会社ACCなど、少なくとも8社が欧州でのEV用電池のプロジェクトを延期または断念した。 調査会社ベンチマーク・ミネラルズによると、欧州での30年までの電池のパイプライン容量は24年に176ギガワット時分減った。ロイターの試算によると、これは欧州での現在の設備容量のほぼ全量に相当する。 <戦略の見直し> 中国の寧徳時代新能源科技(CATL)や比亜迪(BYD)に対抗できるようにするため、欧州がプロジェクトを誘致、支援するためにもっと努力すべきだと訴える向きもある。 電池とエネルギー貯蔵技術を専門とするボルタ・エナジー・テクノロジーズの欧州責任者、ジェームス・フリス氏は「中国がバリューチェーン全体を食いつぶしてしまう前に、欧州は新興分野をどのように支援するのかを再考する必要がある」と語る。 ノースボルトの58億ドルの負債のうち、約3億1300万ドルは欧州投資銀行(EIB)からの分だ。EIBのトーマス・エストロス副総裁は、EIBがノースボルトにとって建設的なパートナーだったものの、EIBと欧州連合(EU)の利益を守る必要があるとして「欧州がEV向けの欧州バッテリー産業に戦略的な関心を抱いていることに変わりはなく、私たちは動向を注意深く見守る。しかし、結果がどうなるかを言うのは時期尚早だ」と述べた。 スウェーデン政府は、ノースボルトに資本参加する予定はないと繰り返し表明している。 ノースボルトの共同創業者で、最高経営責任者(CEO)を退任するピーター・カールソン氏は22日の報道陣との電話会見で、欧州が中国と競争する夢をあきらめつつあることを「少し心配している」と話した。 欧州が後退すれば20年後に後悔することになるだろうとして「それは一筋縄ではいかない道のりで、今は自動車メーカー、政策立案者、投資家からより多くのためらいや、移行のスピードに対する疑問の声が上がっている」と言及した。