FA人的補償交渉の壁になるサイドレターの存在
今オフのFA市場は、日ハムの陽岱鋼を残して決着を見た。動いたのは、糸井嘉男、岸孝之、山口俊、森福允彦の4人だが、注目を集めているのは、移籍先から旧球団への人的補償が誰になるかの行方だ。 野球好きの読者の方々に今さら説明不要かと思うが、FA選手は所属チーム内の年俸順位に応じてA、B、Cのランクに分けられ、A、Bランクの選手を手放したチームは、金銭プラス人的補償を移籍先のチームから受け取ることができる(金銭だけでもOKで補償のパーセンテージが増える)。今オフの場合、糸井、岸、山口の3人が、A、Bランクのため、人的補償が必要で前所属先のオリックス、西武、横浜DeNAは、それぞれ移籍先の阪神、楽天、巨人に対して人的補償を求める方針を固めている。 人的補償は移籍先球団が独自に定めた28人のプロテクト選手以外から自由に指名できるが、誰をプロテクトするのかの問題だけではなく、そこには、もうひとつの問題が横たわっているという。実績のある一部の選手が球団と統一契約書とは別に出来高払いや、複数年契約などを結んでいる、いわゆるサイドレター問題だ。 選手は野球協約の93条の「参稼報酬の不変更」によって、移籍先で年俸が保証されている。だが、選手によっては細かい出来高や複数年契約を結び、果てには引退後のフロント入りの“密約”まで、ありとあらゆる付帯条件を保証されているから話がややこしい。野球協約ではボーナス契約は新人など一部選手だけにしか認めていないが、暗黙の了解的にサイドレターといわれる付帯条件を結んでいるため、獲得球団はその条件を保証せねばならないのである。 FAの人的補償は、移籍選手の支配下登録の公示後、2週間以内に相手チームへ28人のプロテクトを除くリストを提出しなければならない。その名簿を元に獲得選手を検討することになるが、サイドレターについては、いちいち注意書きなどされていない。獲得球団は、そのリストから選手を決める際に、候補選手の付帯条件を相手球団に確認するという作業が水面下で始まるのだ。 若手選手に出来高払いなどが付帯しているケースは少ないが、中堅以上の実績のある選手の場合、多くが出来高払いなどの付帯条件があるため、その確認、検討に時間がかかることになる。またサイドレターの中身は球団によって違うため、その際、球団の内部事情を知られてしまうのも気分のいいものではない。チームによっては、出来高の割合で何の項目を重要視しているかも判明して、チームの方針、戦略までバレてしまうことがある。