<春に挑む2024・熊本国府の軌跡>/上 選手個々の意識変化 /熊本
3月18日開幕の第96回選抜高校野球大会に、熊本県から熊本国府(熊本市中央区)が、鹿児島県から神村学園(同県いちき串木野市)が出場する。熊本国府は春夏通じて初の甲子園、神村学園は9年ぶり6回目のセンバツだ。昨秋の九州地区大会で甲子園常連の強豪を次々と降し、九州王者に上り詰めた熊本国府と、昨夏の甲子園4強のメンバーが多く残る神村学園。両チームの軌跡をそれぞれ上下で紹介する。 【写真で見る歓喜の瞬間】歴代のセンバツ覇者たち 「新チームの目標は甲子園ベスト4。だけど、監督の言葉通りになってしまった」と主将の野田希(のぞむ)(2年)は振り返る。2023年8月19日、熊本県合志市の熊本国府高校第三グラウンド。3年生が抜けた新チームによる新人戦があった。主力メンバーが多く残る熊本国府にとっては、勝ち上がることが前提だった。 対戦相手は千原台。熊本国府はエース坂井理人(まさと)(2年)が先発するなど、本番と変わらない総力戦で臨んだが、2-5で敗れた。10安打を放つも11残塁。2失策もあり、投打の歯車がかみ合わなかった。 実はこの数日前、山田祐揮監督は選手らに「危機感」を伝えていた。「あえて言うけど、こういう状況ではうまくいかない。勝てないよ」 根拠は打撃練習での一コマ。通常、打撃練習のために球を投げる打撃投手は、野手が自身の肩や肘の調子を見ながら自発的に名乗り出るのが通例だが、誰も手を挙げなかった。 普段からチームの小さな変化や空気感に目配りをしている山田監督は、この場面から選手たちの意識の低さを感じ取っていた。決して声は荒らげることはない。「『あいつのためならやってやれる』。チーム全員が勝利に向かって一つになっていなければ、試合で負けてしまう。それが高校野球」 九州地区大会の熊本県予選を前にした最後の練習試合でも熊本西に4―7で敗北。「自分たちは強くなりきれていなかった。まとまりがなかった」(野田)。 チームの主力となる今の選手は、守備を主体にチームづくりをしたい山田監督が県内各地に自ら足を運んで声をかけた。選手たちは、「熊本国府で初の甲子園へ行こう」という山田監督を信じて入学してきた。それだけに、この二つの敗戦と監督の言葉は、選手たちに響いた。捕手の寺尾真洸(まひろ)(2年)は「最初は一人一人が自分のことしか考えていないようだった。チームは変わっていった」と振り返る。 レギュラー、控え問わず、今まで以上に誰もが率先してグラウンド整備や道具運びするようになった。チームに一体感が生まれてきた。山田監督も、一人一人の意識の変化を感じていた。【野呂賢治】