「トラック運転手の給与」はなぜ簡単に上げられないのか、意外と知られていないネックになっていること
配送先である首都圏の市場でも1~2時間待機し、業務終了が深夜になることも少なくなかった。パレットに積まれた配送か否かなど、作業の種別ごとの実績を数値データで示すことで、依頼主や物流事業者など関係者全員で改善点を共有し、検討することができた。 一方で、改革を行っても、現状の輸送料金と、あるべき輸送料金の価格差異すべてを解消するには至らなかった。つまり、本来事前に交渉すべきであった燃料費、人件費の高騰分のすべてをカバーするのには不十分であることが判明した。
実証実験の結果を踏まえ、秋田県の物流事業者は運賃適正化に向けた交渉を続け、その実現に成功している。秋田県の事例からわかったことは、物流改善と運賃適正化の議論をセットで行うことが理想である。 運賃適正化に向けて、まずはドライバーの役割分担やIT活用を通じ、効率的かつ負担の多すぎることのない環境を整えることが必要である。秋田県の事例のように基本構造の再定義から始めることが求められる。 その上で、物流原価と収入を正しく把握し、1運行あたりの利益率を考えた交渉が必要だ。車両1台あたりに対して運賃を請求する方法だけではなく、季節によって変動するコストを依頼主側に負担してもらうために、車両台数を固定した契約に変更するなども選択肢の1つとして考えられる。
■何にどんなコストがかかっているか「見える化」 ITの活用は、運賃交渉の透明性を高める効果もある。現在は、運賃交渉をしようにも、実際の運行データが不足しているため、どのように交渉すればよいか、依頼主も物流事業者も迷いが生じている。 例えば、依頼主の立場からすると、実際にどれくらいのコストがかかっているかを把握できず、提示された運賃が妥当なのかどうか判断が難しい。一方で、物流事業者も、実際の運行に要した時間や距離、稼働状況などを正確に把握できなければ、適正なコストを反映した運賃の提示ができない。
しかし、デジタル技術の導入によって、こうした課題は改善される可能性がある。実際の運行データを基にした運行コスト算出が可能となれば、依頼主に対して適正かつ透明性の高い運賃を提示できるようになる。さらに、依頼主もデータをもとに、提示された運賃の妥当性を客観的に評価できるようになる。双方にとって公平な価格交渉が実現できるのだ。
佐藤 健次 :Hacobu 執行役員CSO