「マンションの役員、ならなくてOK!」甘い言葉を信じた人がハマる“第三者管理方式”の落とし穴
● 「マンションの管理者」となった管理会社に、組合が“食い物”にされる? ここまで見てきた限りでは、第三者管理方式は区分所有者と管理組合にとっていいことずくめの存在のように見えるかもしれない。しかし、前述したように、手放しで受け入れてしまうことには大きな不安が残る。 最も警戒しなければならないのが、「利益相反行為の危険性」である。 日本では、区分所有法で「マンションの管理者」を置くことが決められており、理事長(理事会)が管理者になることが一般的だ。 管理組合は管理費や修繕積立金などの財産を持っているが、委託管理方式の場合、それらの財産について、管理組合の預金口座の印鑑を管理者(=理事長)が、通帳を管理会社がそれぞれ保有するという、「分別管理」の方法をとっている。自主管理方式の場合は、通帳は会計担当理事が保有することになる。 第三者管理方式を採用し、外部専門家(=第三者)が管理者(=理事長)に就任する場合には、預金口座の印鑑は第三者が保有することになる。 問題になるのは、管理会社が管理者(=理事長)となる場合だ。管理を委託する管理組合の管理者と、管理を受託する管理会社が同じ、つまり業務の発注者と受注者が同一の会社になるわけだ。そして、現在第三者管理方式を採用しているマンションでは、その大半を管理会社が受注し、発注者(管理者)=受注者(サービス提供者)という構図が珍しくないのである。
● 自分の印鑑と通帳を第三者にまるごと預けているのと同じ 普通に考えて、自分の印鑑と通帳を第三者にまるごと預けているというケースはそうそうないことだろう(その人物が認知症や重い病気で正常な判断が難しい場合や、本人が死亡してしまったという状況は別として)。 管理組合の財産のうち、会計年度が1年で設定される一般会計はお金が残るものではないが、将来の大規模修繕工事や設備更新のために積み立てられている積立金会計では、預金口座に目が飛び出るような残高が残っている。 長期修繕計画表で見ると、たとえば50戸程度のマンションの場合、30年の累計で数億円程度、100戸を超える規模になると数十億円もの予算になる。 それほどの財産が預けられている預金口座の印鑑と通帳を、同時に管理会社へ預けるということを、多くの管理組合が行っているという点が問題なのだ。 管理組合と管理会社は「利益相反」の関係にあるものだ。利益相反とは、簡単にいえば「どちらかが儲かれば、どちらかが損をする」という構図のことで、管理組合と管理会社との関係性でいえば、管理会社が儲かれば管理組合が損をし、管理組合が得をすれば管理会社が損をする、ということになる。 管理会社は企業であり、当然ながら自社の利益を優先させる。本来なら、管理委託料や管理の質、修繕工事の発注先や発注内容などについて、管理組合と管理会社の双方で交渉しながら調整するという機能があるべきところ、管理会社が両方の立場になっている場合には、そうした機能が働かない。 また、通帳を預かっている管理会社には、管理組合の「財布」の中身のすべてがわかっている。いつ、どんな工事を、いくらで行えば自社の利益になるか、たやすく計算することができるのだ。そのため、自社に関連した業者への不適切な工事発注や不要な修繕工事の実施など、管理会社の利益を最優先にした動きをしかねないのである。 しかも、管理組合には工事発注の詳細が見えないため、その工事の実施の要否や、費用の妥当性のチェックを行うことも難しくなる。 ほかにも、「外部の専門家に委託するため、管理費が増加する」「管理組合の運営のノウハウが蓄積せず、区分所有者に継承されない」「一度第三者管理方式を採用すると、管理規約の大幅な変更が必要になるため、従来の管理方式に戻しにくい」というような問題が考えられる。