難民問題で揺らぐ「シェンゲン協定」 廃止なら欧州にどんな影響がある?
EU不信の広がりにより、ヨーロッパ各国は自国の生き残りに必死になっており、それにつれて米国との温度差も目立ち始めています。2015年に中国主導で設立されたAIIB(アジアインフラ投資銀行)に日米が参加しなかった一方、ドイツなど14のEU加盟国と、EU非加盟のスイス、ノルウェー、アイスランドも参加したことは、その象徴です。 この中でシェンゲン協定が崩壊すれば、EUとしての結束はさらに低下しかねず、それは欧米主導の国際秩序がますます流動化するきっかけになり得ます。その場合、欧米的な価値観や原則のみが「グローバル・スタンダード」と扱われる状況が転換するという意味で世界が多元化すると想定されますが、同時にそれは中ロなど「グローバル・スタンダード」と縁遠い国の発言力がさらに増すことをも予想させます。シェンゲン協定の行方は、ヨーロッパにとどまらず、世界全体に影響を及ぼすものといえるでしょう。
------------------------------------------------------ ■六辻彰二(むつじ・しょうじ) 国際政治学者。博士(国際関係)。アフリカをメインフィールドに、幅広く国際政治を分析。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、東京女子大学などで教鞭をとる。著書に『世界の独裁者』(幻冬社)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、『対立からわかる! 最新世界情勢』(成美堂出版)。その他、論文多数。Yahoo! ニュース個人オーサー。個人ウェブサイト