しつけに悩む親から「何とかしてほしい」 “9人未満”から日本一に導いた広島名将の育成術
創設当初は部員7、8人…「府中広島’2000ヤング」が全国制覇3度に至るまでの転換期
挫折と成長を積み重ねチームは強くなっていった。創設当初は「子どもたちのしつけ」からスタートし、2021年には春夏連覇を果たすなど、ここまで全国制覇3度の実績を誇るのが中学硬式野球チーム「府中広島’2000ヤング」（以下、府中広島）。Full-Countでは小学生・中学生世代で日本一を成し遂げた監督に取材。名門チームに至るまでの紆余曲折を中田博監督に聞いた。 【動画】MLB投手を育てた名伯楽・佐藤義則氏実演 小中学生に伝えたい「キャッチボールのコツ」 府中広島を率いる中田監督は、選手として江津工（島根）時代に春夏連続で甲子園に出場すると、その後は社会人野球・広島のマツダで30歳までプレー。現役引退と同時に同社会人チームの監督に就任し5年間、選手の育成に力を注いだ。 その後はソフトボールの指導者などを経て、2000年に府中広島の監督に就任した。創設当初は「子どものしつけに苦労する保護者から『何とかしてほしい』と言われたのがスタート。7、8人が集まりましたが、やんちゃな子ばかり。時間やルールも守らない、練習ではへそを曲げて帰る子もいましたよ」と、苦笑いを浮かべ当時を振り返る。 野球を教える以前に、まずは人間教育が必要――。個性の強い子どもたちに対し、根気強く正面から向き合い指導を続けた。中田監督の熱心な指導は徐々に評判を呼び、創部5年目の2004年には初の全国大会出場。その2年後には「第14回ヤングリーグ選手権大会」で初の日本一に輝き、名門の仲間入りを果たした。 「人間教育から始まり、少しずつ野球をやる楽しみを覚えていった。基礎練習からスタートして、上手くなるにつれて、せっかくなら高校野球でも通用する人材を作りたい。保護者の方々にも1つ1つ、話をして『是非、お願いします』と、理解してもらい部員も増えていきました。そのなかでも全国大会に初めて出場した時は、チームの転換期だったかもしれません」
全国大会初出場でお祭り騒ぎも、まさかの初戦敗退「厳しさを知った」
2004年に全国大会初出場を果たした時は選手、保護者もお祭り騒ぎだったという。だが、初戦はまさかのコールド負け。投打ともに完膚なきまでにやられた。「全国の厳しさを知ったことで、もう1つレベルを上げないといけない。ディフェンスをから固め、大舞台で力を出すための強い精神力もつけないといけない。課題は明確でした。そこからコツコツ力をつけ、日本一に辿り着けたと思います」。 技術も大事だが、大舞台で結果を残すためには「選手のメンタル。いかにして平常心でプレーできるか」が大事だという。チームには「やる気を大きな声で表現する。失敗を恐れず強気でプレーする。監督やコーチに指導されても嫌な態度をしない」の“3指針”があり、練習の段階から大切にしている。 「チームの目標は全国制覇ですが、その目的は人間形成。心の成長には『目配り、気配り、感謝の心』が大事になります。最近の子どもたちは、他人に関心がないと言われる。失敗しても成功しても、チーム全員で助け合い、喜びを分かち合えるようになってほしい」 創設時は9人に満たないチームだったが、今では20年連続で全国大会に出場するほどに成長した。強豪社会人野球の監督を経て、中学球児の育成に力を注ぐ中田監督は今月21日からの「日本一の指導者サミット」に出演予定。人間教育を中心とした“育成論”を明かしてくれる。
橋本健吾 / Kengo Hashimoto
