“美しすぎる柔道家”に敗れ女子48キロ級銀メダルの渡名喜は東京五輪でリベンジを果たせるのか?
前へ、ひたすら前へ。 ここから逆転を狙って怒涛の攻めを続けた。あとひとつで反則勝ちとなる2つ目の指導が相手にいく。残り50秒で得意の寝技に持ち込んだが、うまく足が抜けない。時間が刻々となくなる中、さらに前へ出て仕掛けていく。バックをとって、そのまま場外へ。ビロディドは防戦一方。「掛け逃げ」とも思える投げで誤魔化そうとしていた。 渡名喜は「なぜ?」のジェスチャーで、その消極性をアピールするが、審判は指導を与えない。さらに追う。倒して抑え込みに動く。渡名喜は、審判を見て再び両手を広げてビロディドに攻撃の意思のないことをアピールしたが、そこで試合終了の合図が鳴った。 連覇を果たしたビロディドは、畳の上に大の字になったまま天井を見つめて泣いていた。それほど苦しかった試合だったのだろう。 「くそ!」 渡名喜は、思わず、そう口走った。 2年連続でビロディドに敗れ、雪辱を果たすことができなかった。これで4戦全敗である。 「絶対に負けないと。勝てる自信があったので悔しい。投げられてしまったのは自分のミスです」 その表情は悔しさに溢れた。 だが、昨年完敗した相手をあと一歩まで追い詰めた試合内容を増地監督は称えた。 「昨年の戦いより、すごく差が縮まった。1年間対策を練っていたことができた。(技ありを取られた後も)渡名喜のペースで試合が展開した。あと一歩及ばずといったところ。あとわずか。このわずかな差をしっかりと縮めることをしていきたい」 渡名喜は決勝まですべて1本勝ちの快進撃を続けていた。初戦の2回戦で横四方固め、3回戦はロンドン五輪銅メダリストのE・チェルノビスキを崩れ上四方固めで抑え込み、準々決勝のも抑え込みを交えて合わせ技1本で下し、準決勝では、D・クラスニチ(コソボ)を袖釣り込み腰で倒した。 「打倒・ビロディド」に燃え、あらゆるトレーニング方法を取り入れ単身1週間のモンゴルへの武者修行までを経験した。 審判の判断が違えば、逆転劇となる3つ目の指導がビロディドに与えられてもおかしくなかった。ビロディドとの差は、この1年間で戦略やコンディションでどちらに転ぶかわからないラインまで来ている。