防衛ラインに達した円安:当局は介入が近いことを強く示唆:マイナス金利解除で日銀も円安阻止のより強い手段を手にした
ドル円レートは重要な局面に
3月22日にドル円レートは1ドル151円80銭と、152円目前の水準にまで達した。19日の日本銀行のマイナス金利政策解除という決定が、ドル円レートが円安方向に動くきっかけを作った。 政策変更自体は円高要因であるが、それ以前に市場が想定していたよりも緩やかな政策金利引き上げになるとの期待が、為替市場で円安の流れを作った。また、マイナス金利政策解除直前に発表された春闘での賃上げ率が予想よりも上振れたことも、現時点では円安要因となっている。 高い賃上げ率が、先行きの物価上昇率の見通しを引き上げる一方、日本銀行は低金利を持続するとの観測が強まると、実質政策金利(名目政策金利-期待インフレ率)が低下して、それが円安圧力を生むのである。 1ドル152円目前の水準は、昨年、一昨年と2回到達した円安のピークの水準だ。言い換えれば、同じ水準で2回、円安の流れが跳ね返されている。その結果、この水準は重要な意味を持つようになっている。3度目の正直ではないが、今回もこの水準で円安がピークを付ければ、そこは非常に強い天井、との見方が広がり、為替は円高方向に振れやすくなるだろう。 他方、過去2回の円安のピークの水準を超えて円安が進めば、円安方向の目途がなくなることから、円安に一気に弾みが付きかねない。これは、物価高を助長し、国民生活を圧迫しかねない円安を抑えようとしている日本政府にとっては、大きな脅威である。 このように、ドル円レートの動きは現在、重要な局面に差し掛かっている。そしてその水準は、当局の防衛ライン圏であり、いつ円買いドル売り介入が行われてもおかしくない状況だ。
「投機」との表現は為替介入が近いことを示す重要なメッセージ
当局の強い警戒感を露わにしたのが、25日の神田財務官の発言だ。財務官は「今の円安の動きは明らかに投機が背景にある」、「(為替介入については)常に準備はできている」と市場を強くけん制した。 投機か投資かを区別することはできない。従って「明らかに投機」と言っても、その明確な証拠がある訳ではない。しかしこの「投機」という言葉は、為替介入が近いことを示す重要なメッセージである。 先進各国は、為替市場に介入することは基本的には控えることで合意している。従って、公式には防衛ラインは存在しない。特定の水準を意識した為替介入は、為替操作と批判を受けてしまう。 唯一為替介入が許されるのは、為替市場が投機的な要因によって過度に変動する場合に、その変動を抑えるスムージングオペを行うことだけである。そこで、日本の当局が1ドル152円程度をクリティカルな水準と考えていても、それは為替介入を実施できる理由とはならない。 財務官が「投機」という言葉を使ったのは、単に市場をけん制する狙いだけでなく、主に米国当局に対して、近い将来、日本が為替介入を実施しても、それは特定の為替水準を意識したものではなく、投機的な動きへの対応であることを予め示す証拠づくり、と考えられる。そのため、この発言は、為替介入が近いことを強く示していると理解できるだろう。