「古巣に恩返し」「地元愛で電撃復帰」…なぜスポーツメディアは「浪花節」報道が大好きなのか?
背景ではなく結果を
日本の場合、FAで出て行った選手に対してはかなり優しい。若手であれば「古巣への『恩返し』ができるか」などと表現をし、あくまでもこれまで仲間だった選手に対して優しい。例外的なのは、性加害問題で2023年シーズンをフイにした元西武・現ソフトバンクの山川穂高だ。FA移籍を果たした際、西武ファンは「こいつには呆れた」「こんなヤツいらない」と大ブーイングだった。 だが、今年、山川は全試合4番出場で本塁打と打点の2冠王を獲得。浪花節スポーツメディアは今後山川を称える浪花節記事を出すだろう。それだけ日本人はスポーツに浪花節と人間ドラマを求めているのである。 オリンピックも同様で「亡き母(恩師)に捧げる金メダル」的な記述やパリ五輪柔道女子で阿部詩が2回戦負けを喫した時は「兄の一二三が妹のリベンジをする!」「兄は金メダル、妹号泣!」のように報じる。メディアが過度に浪花節報道を続けるとアスリートからしても「そういうことじゃないから……。オレら背景ではなく結果を見てもらいたいのですが……」と言いたくなるのではなかろうか。 中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう) 1973(昭和48)年東京都生まれ、佐賀県唐津市在住のネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『よくも言ってくれたよな』。最新刊は『過剰反応な人たち』(新潮新書)。 デイリー新潮編集部
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