「消滅可能性自治体」発表の是非 人口戦略会議と農村政策専門家に聞く
地域づくりぶれずに 明治大学教授 小田切徳美氏
――再び示された「消滅可能性自治体」をどうみますか。 「またか」という思い。10年前と同じ「消滅可能性」という強い言葉を使い、その市町村名の「リスト」まで発表するという同じことの繰り返しにあきれている。 まず、少子化対策は自治体ではなく、国レベルの政策が必要である。それなのに、若い女性の数を指標として市町村単位の数字を必要以上に大げさに発表することで、指摘された「消滅可能性自治体」に責任があるような構図を作った。 人口戦略会議を名乗るのであれば、実質賃金の引き上げなどの国レベルの対応を議論すべきであり、地域問題に首を突っ込むのは筋違いである。 また、女性が半減する自治体を「消滅可能性」とする根拠はない。50%とする区切りに意味はないと10年前から批判されていた。しかし、こうした批判に答えないまま再び「消滅可能性自治体」を提示する姿勢は無責任ではないか。 さらに、人口減少でどの自治体も苦慮し対応を進めている。そこに再び消滅だと危機感をあおっても、頑張ろうという人はいない。危機感を醸成させるという考え自体が誤りだ。 むしろ地域や人々は、可能性や希望で行動する。各地の可能性の析出こそが重要。イソップ童話の例えで言えば「北風」ではなく「太陽」路線で小さな可能性を共有化し、それを少しずつでも大きくすることが本筋だ。 ――今回は出生率の向上を重視しています。その評価はどうですか。 人口戦略会議は、過去10年間の地方創生政策により、人口の奪い合いが起きたと批判している。 しかし、国が少子化に有効な対策を取れていない状況で、それなのに、10年前の地方消滅論により地域間競争をあおられた。 このため各自治体は、自分たちで取り組むことができる「社会減対策」という移住者の増加を目指すしかなかった。 人口の奪い合いは10年前の「増田リポート」に起因するのではないのか。それなのに、平気で批判を繰り広げ、自らの加害性への認識がない。だから同じことを繰り返すのだろう。 ――ただ、農村の人口減少が加速化しているのは事実です。どう対応すべきでしょうか。 人口減少対策では、少子化に歯止めをかけるような「人口減少緩和策」と、人口減少を前提として、少ない人口でも幸せに住み続けるような仕組み作りを促進する「人口減少適応策」がある。両者のバランスが必要だ。 「緩和策」は国全体の出生、子育て環境の充実など、主に国レベルの仕事だ。 「適応策」は、例えば過疎対策のように国レベルでの格差是正政策と、地域でそれぞれ内発的発展を目指すような地域レベルの対応がある。自治体ができる取り組みは「適応策」の中でも後者だ。例えば、地域運営組織(RMO)の設立支援や活動充実支援、また各種の人材育成などがある。 そのような適応策は、「地域づくり」と呼ばれ各地で取り組まれている。「地域づくり」はこの10年間さまざまな点で前進している。中には、関係人口を呼び込み、住民の各世代、移住者、関係人口や支援する企業や大学などが“ごちゃまぜ”になり“ワイワイ・ガヤガヤ”という雰囲気をつくり出す「にぎやかな過疎」といえる地域も生まれている。 ――「にぎやかな過疎」の地は「消滅可能性自治体」から脱却していますか。 こうした地域でも「消滅可能性」と人口戦略会議からレッテルを貼られた地域も多くある。それは、定住人口だけを指標として、評価することに無理があることを意味している。指標化をするのであれば、せめて関係人口を考慮すべきだ。 そもそも、人口小規模町村では年齢別の推計値は初期条件で大きく変動しやすい。今回「脱却」とされた所でも、そのような“数字のいたずら”である可能性もあり、逆も当然あり得る。 ――つまり地域はどうしたら良いのでしょうか。 「にぎやかな過疎」といわれるような地域の一部では、地域全体で子育てする雰囲気も整い、出生数も増える傾向さえ見える。むしろそうした雰囲気が地域にできることは、真の少子化対策になる。「適応」が最終的に「緩和」につながっている。 「人口が減少しても、幸せに住み続けること」を地域の力、自治体の力、関係人口などの外部からの力を糾合して、追求し続けてほしい。その先に人口減少への対応が見えてくる。 従って従来から各地で取り組んでいる地域づくりをぶれずに進めてほしい。今回の推計にあおられて一喜一憂する必要は全くない。
<ことば>消滅可能性自治体
子供を産む中心世代である20、30代の女性人口が、2050年までの30年間で5割以下に減少する744自治体を「消滅可能性自治体」と定義した。この他「ブラックホール型自治体」「自立持続可能性自治体」などと全自治体を9分類に区分けして発表した。10年前も増田氏が座長を務めた「日本創成会議」がほぼ同様の推計を発表。40年までの20、30代の女性人口を推計し半数の自治体が消滅する可能性が高いとした。通称「増田リポート」と呼ばれ、地方創生政策の契機になった。
日本農業新聞