<編集長に聞く>世の中の「カウンター」でありたい――月刊「創」篠田博之氏
出版不況が叫ばれるようになって久しい昨今。近年、毎年のように老舗・名物雑誌の休刊のニュースが絶えない。そんな中、独自の立ち位置で異彩を放ちながら出版界で存在感を見せている雑誌がある。老舗メディア批評誌である月刊「創」もその一つ。ここでは、その編集長、篠田博之氏に「創」を編集することへの思いや、現在のマスコミ報道、ネット界の言論状況などについて話を聞いた。
月刊「創」とは
月刊「創」は1971年に創刊。もともとは総合雑誌として出発したが、篠田氏が編集長に就任した1981年、「音羽VS一ツ橋」などの出版社研究特集が話題を呼び、次第にメディア批評的な路線に転換していく。 「創」では、こうしたメディア検証のほか、皇室問題などのタブーに切り込む特集や、世間を騒がせた事件などの社会問題が取り上げられてきた。1986年には故・三浦和義さんの「ロス疑惑報道」検証、1997年にはオウム真理教元代表、松本智津夫(麻原彰晃)死刑囚の三女アーチャリーの独占インタビューを掲載。また、連続幼女殺害事件の宮崎勤元死刑囚(2008年に刑執行)との往復書簡や和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚の手記なども扱った。
「反対側」から光を当てたい
――――どのような思い、編集方針で「創」を作っているのか? 篠田編集長:一言で言うと、世の中の「メジャー・カルチャー」に対抗する「カウンター・カルチャー」が必要だという思い。いまのメディアは、一極集中的で大量に情報を流している。一見、情報量は多いように見えるが、実は画一的な情報が大量に流れているだけ。いろいろな角度の情報が伝えられていない。だから反対側から光を当て、視点を変えた見方を提示したい。 例えば、1997年に麻原彰晃の三女アーチャリーの独占インタビューを掲載したが、当時のマスコミの報道は、オウムは凶悪だと断罪するだけだった。オウムが凶悪なのは間違いないが、なぜ普通の市民がそういう凶悪な集団にあれほど加入していったのかを解明しないと、オウム事件を解明したことにならない。そういう本質に迫るためにも、オウムの内部に踏み込む報道をしようと考えた。 連続幼女殺害事件の宮崎勤死刑囚や和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とは、10年以上接触してきた。宮崎事件などは、極めて複雑な事件だし、宮崎死刑囚は外部に心を開かない人物だったから、当事者に事件について語ってもらうには時間がかかる。いっときは過熱報道になる代わりに、2~3か月もすると忘れ去ってしまうという今の報道のあり方は、事件をただ「消費」するだけで、掘り下げた問題提起ができていない。新聞やテレビの犯罪報道を丸ごと否定するつもりはないが、真実に迫るためには、違ったアプローチも必要だと思う。