被災者、愛犬を「里子」に 輪島の弥郡さん 仮設で飼育難しく金沢預ける
●混乱恐れ再会我慢 「いつかまた一緒に」 能登半島地震で輪島市の自宅が大規模半壊した弥郡(やごおり)三四子(みよこ)さん(59)は、愛犬ボスを金沢に避難させ、離ればなれの生活を送っている。北海道犬は周囲への警戒心が強く、仮設住宅で飼うことが難しいと、3年前に新たな家族を迎える仲介をしてくれた知人宅に「里子」に出した。震災でペットとの生活を奪われた被災者は少なくない。弥郡さんも里親とボスの関係を崩したくないと会いに行けない日々だ。それでも「いつかまた一緒に暮らしたい」とかつての日常が早く戻ってくることを願っている。 北海道犬はヒグマやエゾシカを追う狩猟犬で、国の天然記念物に指定されている。忠誠心が強い一方、勇猛で他の動物に敵対心を見せる一面もあるとされる。 ボスは3歳の雄。有害鳥獣から農作物を守るため、弥郡さんが2021年9月から飼っている。自宅がある輪島市上大沢町は20世帯ほどの集落で、ボスは住民から餌となる野菜をもらうなど次第に警戒心を解き、親しまれていた。 ただ、地震で集落は孤立。弥郡さんは自宅が再建できるまで、NPOや民間企業などにボスを預けることも考えたが、知人で天然記念物北海道犬保存会北陸支部の事務局を務める川崎日出実さん(62)=金沢市太陽が丘=と夫の義郎さん(62)にボスを託すことにした。川崎さん夫婦はブリーダーと弥郡さんを仲介し、1週間ほどボスを預かった経緯がある。 自宅に戻るまで数カ月の辛抱と考えていた弥郡さんだったが、9月の豪雨で集落に土砂が押し寄せ、生活再建が見通せなくなった。保険の仕事で金沢を訪れる際に、ボスの体調について報告を受けているものの、関係の構築に時間がかかる愛犬を混乱させないために、顔を見に行くことを避けているという。 弥郡さんは「早く会えるよう生活を建て直したい」と前を向き、川崎さんも「元気な状態で輪島に戻してあげたい」と話した。 ●ピーク時は160頭預かり 県獣医師会によると、能登半島地震では、2月中旬ごろのピーク時で約160頭のペットを一時的に預かった。2次避難に伴い世話を依頼するケースのほか、公費解体のタイミングで預け先を探す人などがいたという。9月の奥能登豪雨で仮設住宅が床上浸水し再び世話を依頼する飼い主もいて、現在は県内の動物病院で十数頭を保護。NPOや知人を頼る被災者もいるという。