まさに全員でつないで、つかんだミラクル勝利。もう甲子園のグラウンドもスタンドもお祭り騒ぎである。岡田監督は、近本に近づき笑顔で右手を差し出して何やら言葉をかけた。 　近本は「何を言っているのか聞こえなかった」と苦笑い。 　岡田監督は「最後まであきらめずにやった結果」と虎ナインを称えた。 「ほんとは9回裏じゃなくもうちょっと早いイニングに点と取って勝たないといけない。でも、今は、そんな理想的な展開を求めるのは無理なチーム状況。とにかく勝てるゲームを勝っていく方が大事かもわからない」という表現で2試合連続となった逆転サヨナラ劇を総括した。 　怒涛の4連続代打の裏には、智将の奥深い読みがあった。6回に一死一、二塁のチャンスがあり、左腕の山本に対して、佐藤が見逃がし三振に倒れ、島田が打席に立つ場面では、代打も考えられたが、あえて、ここで勝負手を打たなかった。 「3イニングあって1点差。まだ仕掛けるのは早いかなと思った。まだもう1回、チャンスある」 　結果、島田も見逃しの三振に倒れたが、岡田監督は、代打を使う勝負の場面は、終盤に巡ってくると読んでいたのである。 　セ・リーグでタイトル経験のある評論家の1人は、ヤクルトの致命的なミスを指摘した。 「なぜ高津監督は、4番で三塁を守るチームの中心選手である村上を8回に代えて守備固めに北村拓を出したのか。怪我などの内部でしかわからない事情があるのかもしれないが村上は下手ではないし、こういう緊迫した場面でも落ち着いてプレーできる経験がある。延長に入れば打席も回ってくるし、チームの看板選手は最後のアウトまでグラウンドに立っていなければならない。現役ドラフトで巨人からきた北村も、中堅選手だが、守備の人ではない。ベースを気にしたのか、打球に対するスタートの一歩が遅れてハーフバウンドになった。しかも両手で捕球しにいっていた。ああいう打球には、もっと大胆にシングルキャッチで捕球にいっていいのだが、大事にいきすぎた。ある意味、経験不足が出てしまった。起こるべくして起きたミスと言ってもいい」 　このヤクルトの詰めの甘さが、貯金3で3位をキープしている阪神と、借金11で最下位に沈むヤクルトとの差なのかもしれない。 　5割転落の危機から、3試合連続の逆転勝利で、ようやく連覇を狙うチームのエンジンがかかりつつある。 　2試合連続でマルチ安打をマークしている近本が「一人一人が自分の仕事をしっかりやってくれている。良い波に乗っている」と口にした。 　今日10日の先発はヤクルトが奥川で阪神が大竹のマッチアップ。感動的な復活を遂げた奥川とは6月29日に神宮で対戦して5回を2安打1点と封じ込まれた。ただ球威もキレもそれほどなく、うまくかわされたという内容で、攻略の糸口はつかんでいた。 　岡田監督がメッセージを残す。 「ヒットは前よりは出るようになってきた。あとはつなぎでしょう。前回奥川には神宮でやられている。みんなも一回見てるんで打線の奮起をね。奥川が投げている時に2点、3点取ってくれればもっと楽な展開になる。打線の奮起ですね。明日は」 　ようやく虎に昨年の優勝チームの雰囲気が出てきた。