ケニアで若者の怒りが爆発 反増税デモの背景「マイクロファイナンスの闇」とは?
略奪される社会の弱者
1990年代にマイクロファイナンスが広まり始めた当初は、少額を低金利で貸し出す仕組みだった。しかし近年は、広く利用できるマイクロクレジットの大半が、民間のフィンテック業者による短期で高金利の融資だ。 経済的に安定していない個人に融資することで負うリスクにより、貸し手は高い金利を正当化できると主張する。だが、借り手は莫大な利息が上積みされ、返済が追い付かずに破綻してもローンが残る。 これは必然的な結果ではない。ケニア政府も国際社会も、略奪的な貸し付けを取り締まる手段を持っている。適切な政策によって、マイクロファイナンスの本来の目的どおり、公正な成功の機会を与えられれば経済発展の原動力になり得る人々を保護できるはずだ。 グローバルサウスでは多くの民間のマイクロファイナンスが、イタリアの経済学者リサ・クロサトとルチア・ダッラ・ペッレグリナの言う「理不尽な高利貸し」になっている。「高利貸し契約の本質を知らない借り手に、過大な金利を課している」のだ。 ただし、ケニアの貧困者が契約の結末を理解しているとしても、選択肢はほとんどない。全額を前払いすることは不可能だ。 また、ケニアは近隣諸国に比べて金融セクターが発展しているとはいえ、多くの人にとって銀行融資は手が届かない。銀行口座を持っているのは全成人の半数、クレジットカード保有者は6%、デビットカード保有者は22%、住宅ローンを組めるのはわずか11%だ(いずれも推定)。 略奪的な融資に対し、ケニア政府が辛うじて手綱を締めたと言えるのは、22年3月にデジタル融資市場の規制を強化する新しい法律を可決したことだ。業界はケニア中央銀行の管轄下に置かれ、デジタル金融業者とその商品の認可と登録を標準化する枠組みが導入された。 正しい方向に一歩進んだのは確かだが、この法律には金利や手数料の規制がなく、略奪的なデジタル融資の抑制にはつながらなかった。高利貸しの具体的な防止策を導入できなかったのは、個人だけでなく国の中長期的成長と安定にとっても問題だ。 略奪的貸し付けの影響は懐具合を超えて、広範に及ぶ。最低限の生活もままならない状況に借り手を閉じ込め、ひいては教育、結婚、子育ての機会や健康を奪いかねない。 さらにケニア中央銀行は昨年12月、一部の金融業者が新法の抜け穴を悪用し、適切な監督を受けずに無許可で営業していると述べた。そうした業者の中には、バイク用ローンや資産担保融資を提供する大手5社も含まれていた。 民間に代わって融資を行おうと、政府も努力している。 ルトは22年の大統領選で、野心はあるが仕事に恵まれない若者を支援すると公約。大統領に就任すると速やかに、経済を底辺から刺激するという触れ込みで「ハスラー・ファンド」を設立した。今後5年間で約3億8700万ドルを個人や中小企業の経営者に融資するプログラムだ。 ルトの取り組みを一部のアナリストは高く評価し、民間業者は金利の引き下げを迫られるはずだと予想する。一方で若者層にはメリットが少なく、経済刺激策としての効果は限定的だとする声もある。 取り組みがケニア経済に与える影響はまだ見えない。だが返済期間が短く、対象が正式に登録された事業に限られるなどの制約があるため、若者にとってハスラーの小規模事業者向けローンは民間業者の代わりにはなりにくい。 公式サイトによれば、ハスラーの融資実績は約5万4000件の事業に総額およそ138万ドルと伸び悩んでいる。利用者の大半が選ぶのは個人向け融資で、こちらは約4億800万ドルをおよそ2300万人に貸し、借り手は急な出費や生活費に役立てている。 バイクタクシー業を営むサミュエルとジュマにとって、ハスラーの小規模事業者向け融資は選択肢になかった。彼らは多くのケニア人と同様に、金利は格段に高いが返済期間の長い民間業者を利用した。 2人が金を借りたフィンテック企業ワトゥ・クレジットは2015年の創業で、ウェブサイトにはアフリカ7カ国で「融資実績150万件以上」の文字が躍る。ワトゥも、同じくバイク用ローンを提供するモゴも、融資の条件は似たり寄ったりだ。 どちらもケニア中央銀行に名指しで無許可営業を批判された大手。借り手に無理のない借り入れを促すツールやトレーニングを提供しているが、効果の程は不明だ。