【田村藤夫】独立L・埼玉武蔵-信濃で感じた「誰かが見ているかもしれない」との思い
【180】<ファームリポート・独立リーグ(ルートインBCリーグ):埼玉武蔵ヒートベアーズ6-9信濃グランセローズ>◇12日◇レジスタ はじめて独立リーグのルートインBCリーグを球場で見させてもらった。球場のお客さんが試合を楽しむ雰囲気と、選手がプロを目指して一生懸命に取り組む姿は、ファームで感じる熱気とは少し異なり、非常に新鮮だった。 ◇ ◇ ◇ 試合前のシートノックからじっくり見させてもらった。プロではないリーグを見る時、ファームと比較するという視点だけではなく、選手のひたむきさを見るようにしている。 その中で、捕る、投げる、打つという基本技術に着眼した。両チームとも内野陣の捕球動作は一定のレベルにあると感じた。足の運び、捕球から送球までの流れ、そして肝心の送球の正確性など、しっかりしていた。 試合の中で目にとまったのは、身体能力がよりわかりやすい外野手。埼玉武蔵ヒートベアーズの右翼山本力哉の肩は魅力があった。一塁走者が、右飛でハーフウエーから帰塁する場面では、矢のような送球でダイレクトで一塁に投げていた。セーフにはなったが、常に走者の位置を確認している意識の高さ、正確に強く送球できる肩はアピールポイントになる。 バッティングでは信濃グランセローズの左バッターの馬場愛己が光った。逆方向への確実なミート力があると感じた。首位打者を争っていると聞いた。確かに、あれだけのバットコントロールならば、このリーグの投手のレベルならかなりの確率でヒットゾーンに運べるだろうと感じる技術を備えていた。 打球判断が遅れて飛球を捕れずにヒットにしてしまう、あっさりとけん制でアウトになる、チャンスで進塁打が打てない、バッティングカウントでの確実性が足りない。そうした課題はあるとは感じる。 おのおのの選手のキャリアをすべて調べてはいないが、私が日本ハム時代にバッテリーを組んでいた埼玉武蔵ヒートベアーズの西崎幸広監督からは、強豪校とは言えない高校から夢を持って飛び込んできた選手も数多くいると聞いた。 基本的な部分を学びながら、実戦を通してチャンスを見いだそうとしている。私は試合を通して、こうした選手たちの姿からは「プロに行きたいんだ」という強いメッセージを感じた。その野心、執着が向上心を生む。 こうしてお客さんがたくさん入ってくれる球場で、プレーできる。レベルがどうの、技術がどうの、ということよりも、どこにチャンスがあるか分からないと思いながら、全力でボールを追う姿は、胸に迫るものがある。 プロ注目の選手がいる社会人野球、大学野球、高校野球は誰かがチェックしている。それが独立リーグとなると、スカウトが足を運ぶ頻度は低くなる。それを知った上で、それでも「誰かが見ているかもしれない!」という姿勢は確かに伝わってきた。 スタンドには若い女性もカメラを携えて観戦していた。子どもから年配のファンまで、たくさんのお客さんが来場していた。特にホームの埼玉武蔵ヒートベアーズの一塁側はお客さんが多かった。 こうして地元のファンの方が熱心に応援に足を運んでくれることは、選手の励みになるだろうし、精いっぱいのプレーを見にファンの方はまた球場に足を運んでくれる。活気のある、いい雰囲気で試合を見ることができた。 全国で運営されている独立リーグから、最近はプロに入る選手も増えてきた。支配下選手、育成契約と違いはあるが、プロの世界に飛び込み、勝負できる土俵に立っている独立リーグの先輩選手たちは、この日の両チームの目標であり、希望だろう。 ここから、急激に成長していく選手が1人でも多く育ち、そしてそのプレーが誰かの目に留まることを願わずにいられない。(日刊スポーツ評論家)