高田馬場に子連れの下見ツアー客が… 押し寄せる「中国人留学生」のリアル
日本の大学や高校をめざす中国人学生が増えているという。背景にあるのは中国内の「巻」や「内巻」……。いわば日本は、中国の受験戦争のしわ寄せを受けているような形だ。上海と日本を行き来するライターの萩原晶子さんが取材した。 【画像】駅周辺には「簡体字」を掲げる中国料理店も次々オープンしている ***
「巻」とは、学生同士の過酷な競争を意味する言葉。特に「内巻」には、不毛な競争というネガティブなイメージもついてまわる。 「巻」を生み出している一因は、中国の「中考分流」にある。2018年にはじまったこの教育制度では、高級中学(普通教育を行う高校)への進学を目指す中考(高校受験)に失敗すると、大学進学の道が閉ざされる。その場合は、中等専門学校(高専)、職業中学(職業訓練校)などへ進学することになる。中考の合否が決まった時点で、約半数が大学進学を諦めなければならない過酷なものだ。大学を卒業しても就職が難しい現状が生んだ制度ともいわれる。 2024年度に“新巻王”の異名がついたエリアがある。新たな開発区に多くの企業を誘致し、人口が増えている上海市の松江区だ。受験生の増加に伴い、合格ラインの点数は昨年比で2.3点もアップした。中考は一般的に750点満点で、試験内容は地域ごとに異なるものの、“新巻王”では600点台をとっても厳しい状態だったという。このように学生は、学力とは直接関係のない要因でも競争に晒され、進学が危うくなったりもするわけだ。 この「中考分流」が生んだ「巻」が、日本留学へ向かわせているという分析も多い。「国内の大学が無理なら海外へ。海外のなかでも安くて近い日本へ」というわけだ。日本学生支援機構の「外国人留学生在籍状況調査」のデータを見ると、令和5年度の日本への中国人留学生は約11万5,000人にのぼり、前年度比で11%増加している。
高田馬場で見かけた団体客の正体
今年の3月、それを実感する光景を目撃した。場所は東京の高田馬場駅。旗をふる添乗員の後ろに家族連れの4、50人の団体がつづいていた。観光客とは雰囲気が違う。子供は皆、小学生の年齢だった……。 思わず尋ねると、日本の高校や大学、予備校を下見するツアーだという。たしかに高田馬場には中国人向けの予備校が集まっている。参加者のひとりはこう話してくれた。 「日本留学を決めているわけではありません。ただ最近の中国の厳しさを考えると、事前に見ておいたほうがいいと思い。それに日本は安いので家族旅行も兼ねてね。桜が咲いてラッキーでした」 高田馬場周辺には、俗に馬場中華と呼ばれる中国料理店が次々にオープンしている。その看板には大陸で使われている簡体字。客の多くは中国人留学生や予備校生だという。