「みそラーメン　さつき」を復活させる渡部正之さん（左）と店長の瀬戸貴正さん＝兵庫区門口町

　思わず、おなかが鳴りました。２０年近く地域で愛されながら、店主が急逝して閉じることになったラーメン店を復活させるというのです。兵庫区門口町の「みそラーメン　さつき」。常連だった男性が仲間に呼びかけ、秘伝の味を学んで店を継ぐ「再生プロジェクト」を立ち上げました。記者にとっても思い出の味です。営業再開に先立って試食会をする－と聞いて取材しました。（長沢伸一） 【写真】「行列の味」に腕を振るった店主の故・烏山孝吉さん ■「最高の一杯をありがとう」 　店主を務めてきたのは故・烏山孝吉さん。元は洋食の料理人でしたが、阪神・淡路大震災で職を失って心機一転します。市内のラーメン店で技術を学び、２００５年におかみさん（妻）と、この店を開きました。 　二人三脚の日々。当初は閑古鳥が鳴きましたが、５年目ごろから常連が増え、１０年目には大行列ができる評判の店になりました。 　しかし創業２０年が迫る中、孝吉さんは体調を崩して今年４月に入院、翌５月に７３歳で亡くなります。おかみさんが閉店の知らせをシャッターに張ると、そこにメッセージを書いた紙が次々と添えられました。 　「最高の一杯をありがとう」「ハチマキに鍋振るう店主は本当にカッコ良かった」…。 ■「食べたことがない味」と衝撃 　常連の一人だったのが、大阪、神戸で薬局を営む渡部正之さん（４７）＝西宮市＝です。サラリーマンだった１０年頃に立ち寄り「食べたことがない味」と衝撃を受けました。毎週通うようになり、１１年に一念発起で起業した後も毎月訪れ「中毒症状」と笑います。 　「どうしてもあの味を残したい」。閉店を知って思い立ち、今年６月３日、おかみさんに手紙を出すと、翌日に電話がありました。 　「いつも来てくれて、味も知っているあなたに、お願いしたい」と。 　渡部さんは自身がオーナーになると決め、常連や友人に再生プロジェクトを呼びかけます。飲食店で働いた経験のある中高の同級生、瀬戸貴正さん（４７）が店長に名乗りを上げました。 ■試食会で「ばっちり」と太鼓判 　１０月２０日、試食会に４０人が集まりました。おかみさんから数カ月間にわたってスープ作りを学んだ瀬戸さんが鍋を振るい、それぞれが麺をすすり始めます。 　記者の私も入社間もない頃、警察官に紹介されて食べたのが最初です。すっかりとりこになるも、異動で５年ぶりに神戸に戻った直後、店は閉じました。 　コクのあるスープは辛いのに甘く、細麺が絶妙に絡みます。「ばっちりや」と、皆から太鼓判の声。それでもチャーシューの厚さ、スープの熱さなど、細かい部分には指摘が続きます。 　渡部さんが孝吉さんをたたえます。「季節によってみその量を変えるなど、絶妙な職人の勘でやっていた。すごい」 　営業再開は１１月１日と決めました。「みんなが愛したさつきのラーメンをそのままの形で届けたい」。そう言うと、おかみさんがほほ笑みます。 　「お父さん（夫）の味を継いでくれて、うれしい」 　カウンター席のみ１０席。営業は午前１１時～午後３時。水曜定休。