【書評】生きた化石の最前線を追う:柳澤静磨著『愛しのゴキブリ探訪記』
マレーシア、豪州などへ海外遠征
海外篇「外国のゴキブリ探訪記」は冒険譚のようで読み応えがある。著者がゴキブリを追い続けて、かれこれ5年が経った遠征先は東南アジアのシンガポール経由で入国したマレーシアだ。著者にとっては初めての海外旅行でもあった。 生き物が好きな友人2人を誘っての3人組での道中は、まさに山あり谷あり。夜行性のヤミスズメバチ、吸血するヒル、サソリなどに悩まされながらも、巨大なマレーゴキブリ(別名ジャイアントローチ)などを観察することができたという。著者はマレーシア遠征の成果をこう綴っている。 今回だけで、なんと六〇種を超えるゴキブリに出会えた。たった十日やそこらで、日本産全種に匹敵する種数を観察できたことになる。 2023年3月には「長年の夢であったオーストラリアを訪れた」。豪州遠征には海外での昆虫観察の経験がある友人が同行した。まるで鎧(よろい)を着たようなヨロイモグラゴキブリも見つけ出した。地下に穴を掘って生活するゴキブリで、その重量は30グラム以上で、世界で最も重いゴキブリといわれる。日本の台所などに出没するクロゴキブリは2グラムほどしかない。 豪州では最悪の場合、死に至る病気を媒介するダニにも噛まれた。しかし、小型のユーカリゴキブリ属、光り輝くゴウシュウゴキブリ属など「二〇種ちょっとのゴキブリと出会うことができた」という。
ゴキブリ展で「GKB48総選挙」も
磐田市竜洋昆虫自然観察公園では毎年、著者が中心となってゴキブリ展を開催している。7回目の2024年は2月3日から3月31日までで、同時に「GKB48総選挙」と題したゴキブリの人気投票が行われている。 著者のゴキブリ愛は半端ではない。一部のゴキブリは古来、漢方薬としても利用されてきたが、著者自身もその漢方薬づくりに挑戦したほどだ。ゴキブリ全般の魅力については次のように記述している。 人間との距離が近く、文化的にも興味深い。そもそも、なぜゴキブリは嫌われるのだろうか?彼らとの毎日は興味と謎が湧き出て止まらない冒険をしているようだ。ゴキブリはおもしろい。これが、私がゴキブリを追う理由だ。 ゴキブリを探しに移動した距離は「約十万キロ、地球二周分以上」に達した。しかし、4600種以上といわれるゴキブリの「十分の一も見たことがない」。著者のゴキブリ探訪の旅はまだまだ続く。