【書評】生きた化石の最前線を追う:柳澤静磨著『愛しのゴキブリ探訪記』
泉 宣道
ゴキブリは生きた化石と言われる昆虫。世界に4600種以上、日本には64種が生息する。本書はゴキブリが大の苦手だった著者が西表島訪問を機に、奥深い魅力に引き込まれて世界を旅し、国内外で見つけた珍種を紹介する科学エッセイだ。
「大嫌い」から“ゴキブリスト”に
静岡県西部、磐田市の遠州灘に近いところに「磐田市竜洋昆虫自然観察公園」がある。昆虫館と野外公園が併設されている施設だ。1995年東京都八王子市生まれの著者、柳澤静磨(やなぎさわ・しずま)氏はこの施設の職員で、新進気鋭のゴキブリ研究者である。 「今年1月に南米フランス領ギアナに行き、非常に奇麗なオーロラゴキブリと会ってきました」。柳澤氏は同園でこう話す。水色っぽい体色で縁(へり)に黄色の線が入っているオーロラゴキブリは現在、期間限定で展示されている。日本での公開は初めてという。 本書によると、著者は昆虫が大好きだったが、ゴキブリは「汚くて黒い虫」のイメージがあり、「大嫌いだった」。ところが、同園の昆虫採集の出張で2017年3月、沖縄県の西表島に初めて赴き、ダンゴムシのように丸くなる習性があるヒメマルゴキブリと出会う。これをきっかけに「ゴキブリという生き物の魅力にハマってしまった」のだ。 ゴキブリは「じつはとても多様な生き物で、鮮やかな緑色の種もいれば、カブトムシのようにゆったりとした動きの種もいる」。著者は国内外で精力的にゴキブリ探しを続けている。日本産64種中、これまでに4種の新種を発見した。海外でも台湾、マレーシア、タイ産の3新種を見つけて発表した。今や、自らを“ゴキブリスト”と称している。
西表島から国内各地に足を延ばす
本書は「憧れのゴキブリを求める旅」の記録である。その発端となった西表島は日本産ゴキブリの半数に当たる32種が生息している“ゴキブリ天国”だ。著者は2021年5月に西表島を再訪し、大型のアカズミゴキブリという新種を発見している。 国内では沖縄県の石垣島、与那国島、宮古島、鹿児島県の徳之島、奄美大島、そして四国などにも足を延ばした。 著者の出身地、八王子市にある高尾山(標高599メートル)は登山客数が年間300万人と世界一を誇る。子どものころから通った「マイフィールド」だが、新たな発見もあった。実家に帰省した2018年夏、高尾山でそれまで見たことがなかった上品で美しいヤマトゴキブリに遭遇したのだ。