「年収の壁」撤廃に地方の不満 減収〝穴埋め〟も首長が嫌がる「気持ちの悪い債務」 減税による増収効果を無視した議論
【日本の解き方】 「年収103万円の壁」について、国民民主党の主張通りに「178万円」に引き上げた場合、住民税が約4兆円の減少になるとの試算もある。地方自治体の首長らからは「住民サービスが低下する」などとして恒久的な財源の穴埋めを求める声も出ている。 【表】「4人家族で1カ月に必要な金額」京都総評の試算と内訳 「住民税が減収になる」との地方からの意見に対し、国民民主党の玉木雄一郎代表は「減収分は地方交付税で補塡(ほてん)される」と反論している。 これらのやり取りに対し、財政学者、総務省、財務省からは「各都道府県・市町村の収支が合うよう減収分が補填される仕組みがあるのはその通りであるが、減収分がそのまま地方交付税で補填されるという形にはならず、地方の首長の懸念はもっともである」という見解が出ている。 その前提として、所得税と住民税の基礎控除が国民民主党のいうように引き上げられると、大ざっぱに言えば所得税と住民税がともに4兆円ずつ減収になるとしている。 地方交付税で補填されるのであれば心配はないはずだが、所得税の3分の1は地方交付税の原資になっているものの、その所得税も減少するので、地方の一般財源(地方税、地方交付税など)を実質的に確保するのが大変だというのだ。 所得税、法人税の3分の1、消費税の2割などが地方交付税の原資であるが、それらが減収になるので、補填すべき地方交付税が足りなくなるというわけだ。 これまで地方の収支が足りない分は、国と地方が「折半」で埋めてきた。国は地方交付税を加算し、地方は臨時財政対策債を発行して、穴埋めを行うという流れだ。 臨時財政対策債は形式的には地方の債務であるが、その元利償還に要する費用は全額が後年度の地方交付税によって措置されることとなっている。もっとも、具体的にいつ地方交付税で手当てされるかはわからないので、地方の首長にとっては「気持ちの悪い債務」である。 地方の首長としては、玉木氏の言うように、自動的に地方交付税で補填されるものではないことから、住民税の減収も痛いが、臨時財政対策債もイヤなのだ。また、地方の首長のバックにいる総務省は、これまで「折半」でやってきた不足分について、改めて財務省と交渉しなければならなくなる。 こうしてみても、地方の首長、総務省、財務省はいずれも減税による形式的な減収のみを前提として議論している。減税するのだから景気は良くなるだろうし、それによる増収もあるはずだが、あくまで予算の中でこうした増収は考慮されない。