「怒りのデス・ロード」「ミツバチのささやき」「TENET」で映画弁当作り
大好きな映画に出会ったとき、その気持ちをどう表現したらよいのか。その方法は人それぞれだが、映画をイメージした料理を作ることで“映画愛”を表す人がいる。 【画像】まめごはんによる「マッドマックス 怒りのデス・ロード」弁当 「TENET テネット」を劇場で75回鑑賞したという、映画マニアの料理人・まめごはんは月に一度、映画をテーマに作った料理を振る舞う「映画ご飯会」を主催している。細部までこだわりが詰まった、“ファンアート”ならぬ“ファンごはん”で映画好きの仲間と映画の魅力を“味わう”会だ。今回映画ナタリーでは、まめごはんに「映画弁当」作りを依頼。彼女の大好きな映画である「マッドマックス 怒りのデス・ロード」「ミツバチのささやき」「TENET テネット」弁当を用意してもらった。 小さなお弁当箱に詰め込まれた映画の世界! 映画好きの方は日々のお弁当作りの参考にしてみては(ふたは閉まらないかもしれません)。 取材・文 / 尾崎南 撮影 / 大童鉄平 ■ V8をたたえよ!「マッドマックス 怒りのデス・ロード」弁当 □ menu メインは、劇中に登場するエンジン・V8をイメージしたラムチョップ。サイドには暑い土地でも育てやすいジャガイモのフライが添えられており、ウォーボーイズの信号弾をイメージした真っ赤なパプリカパウダーがまぶされている。さらに血液を求めるウォーボーイズに食べさせたい、栄養価の高いビーツを丸焼きに。またシリーズ最新作「マッドマックス:フュリオサ」で老婆が虫を集めるシーンをイメージし、黄色いターメリックパウダーで味付けされた揚げニョッキも用意された。あの灼熱の荒地を思い起こさせる、スパイシーなお弁当だ。 □ まめごはんcomment 「マッドマックス 怒りのデス・ロード」は、公開日に観に行ったのを覚えています。めちゃくちゃ面白くて明日も観に行こう!と思い、結局は3日間連続で劇場に(笑)。連続して同じ映画を観たのは「マッドマックス 怒りのデス・ロード」が最初かもしれません。それまでは「マッドマックス」シリーズを観たことがなく、「インターセプターが出てきてアツい!」みたいな感想はなかったんですけど、物語のスピード感と、アドレナリンが分泌されるような勢いのある描写に引き込まれました。マシーンのアイデアもすごい! この作品に限らず、世界観が作り上げられている作品が好きなんです。「マッドマックス:フュリオサ」も最高でした!! お弁当のメインにしたラムチョップは、監督ジョージ・ミラーの出身地・オーストラリアの名物でもあります。 ■ お父さんと採ったキノコ入り、「ミツバチのささやき」弁当 □ menu 「ミツバチのささやき」の舞台であるスペインの定番ランチ・ボカディージョを用意。ボカディージョとは、横に切れ目を入れたフランスパンに好みの食材を挟むサンドイッチで、片方にはもっともポピュラーな具材であるハムとチーズが挟まれている。もう1つのボカディージョには、トルティージャというスペイン風オムレツが。主人公のアナが父とキノコ狩りをするシーンをイメージし、キノコがたっぷりと入っている。劇中でアナが兵士に差し出すリンゴと、父が養蜂の仕事をしていることからイメージしたハチミツをテーブルに並べた。あちこちを歩き回るアナと姉・イサベルがピクニック感覚で食べることを想像したお弁当で、スペインの素朴な味が楽しめる。 □ まめごはんcomment 光の差し込み方、ちょっと暗い部屋の様子、お父さんの部屋にいるミツバチたち、夜中にアナが目を覚ましたときの寝室のひんやりした感じ……観客の子供心を刺激する印象的なシーンがたくさんある作品ですよね。遠い異国の物語ではありますが、「昔見たことがある景色だ」と感じるようなシーンがちりばめられています。基本的にトーンは静かですし、淡い色の衣装も素敵で、全体の雰囲気がすごく好きな映画です。今回はお弁当にするにあたって、スペインのポピュラーなお弁当を調べてみました。 ■ 逆行ミッション中の栄養補給に最適な「TENET」弁当 □ menu 劇中で主人公たちが挑む“逆行”を伴うミッションにおいて、食料を持ち歩くことはリスクが伴うはず。さらに大忙しのミッション中に口にすることを考えると、スマートで栄養価が高く、保存がきいて栄養バランスを補えるものがよい……そんな“登場人物目線”で考案された「TENET」弁当は、栄養素別になった4種類のシリアルバー。Redはプロテインのシリアルバーで、大豆ミート・きなこ・アーモンド・ひまわりの種が入っている。味は甘いチョコレート味。Blueの鉄分シリアルバーはカボチャの種、ケール、カシューナッツ、アーモンド、チーズでできており、塩っけのある味わいだ。ビタミンのシリアルバーであるYellowには、全粒粉・胡桃・あんず・クランベリーが。食物繊維のシリアルバーであるGreenは全粒粉・小麦ふすま・ココナッツ・バナナチップ・干し芋でできている。YellowとGreenはそれぞれフルーツの味が楽しめる。 □ まめごはんcomment 先日グランドシネマサンシャインの開業5周年記念で「TENET」が上映されていましたが、この機会に7回鑑賞しました。これで人生で「TENET」を劇場で観た回数は75回に。ここまで観ているので、一番好きな映画と言わざるをえないですね。「TENET」は私にとって絶叫マシーン。何度観ても「もう1回!」という気持ちになるんです。大好きなシーンがたくさんあって、その1つひとつを“浴びに”行っています。日本で公開した頃はコロナ禍直前で、世の中が暗いムードでしたよね。そんなときに観た、あの謎めいたワクワクする予告が印象に残っています。公開後しばらくは、0時になった瞬間にチケット販売サイトで真ん中の席を予約する生活を送っていました(笑)。ダウンロードデータやDVDも持っていますが、劇場は音響の質が桁違いです。お弁当は、慌ただしいミッションの中で識別しやすいように色分けしました。劇中で各車両チームのコードネームに赤・青・黄・緑が使われていたことから連想しています。 ■ “映画ごはん”は食べる二次創作!まめごはんにインタビュー ──まずは映画を好きになったきっかけを教えていただきたいです。 子供の頃は頻繁に映画館へ行くというより、「金曜ロードショー」で映画を観ていました。「いい映画の日は夜更かししてもいい」という母のルールがあって、「サウンド・オブ・ミュージック」のような長い映画でも、最後まで見させてくれました。あとは勉強が終わって深夜にリビングに行くと、BSでニッチな映画を放送する番組がやっていて。「金曜ロードショー」で観るようなキラキラした作品だけじゃなくて、いろんな映画があるんだなと知りました。大学生になってからは、大学のイメージライブラリーやTSUTAYAで映画を借りて、どんどん自分で開拓するようになりました。映画館に通うようになったのは、マーベルを好きになったことが大きいです。 ──それは何歳くらいでしたか? 自分のお金で映画を観に行けるようになった、23歳頃ですね。「キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー」がソフト化して、「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」が公開されているときでした。 ──まめごはんさんは、マーベルのような作風の作品だけでなくアートフィルムもお好きですよね。 そうなんですよ。「ミチバチのささやき」「落下の王国」なども大好きです。どちらかというと自分の肌感覚に合っているのは穏やかで雰囲気のいい映画だと思います。世の中にはいろんな映画があって、どれもこれも面白いなと少しずつ知っていった感じです。 ──まめごはんさんはケータリングのお店でお仕事をしながら、月に一度「映画ご飯会」を主催していますが、どのようなきっかけでスタートしたのでしょうか? 学生時代の友達が映画の上映活動をするチームに所属していて、メンバーと仲良くなったことがきっかけです。そのチームのイベントで、上映作品をテーマにしたごはんを作ってくれないかと依頼があり、やってみたら面白かったんです。だんだん、劇中に登場する食事の再現ではなく、作品をテーマにレシピを考えるようになっていきました。味で映画の素晴らしさを思い出したり共有することができるのは楽しいなと感じて、「映画ご飯会」を始めました。徐々に月1ペースになった感じです。 ──劇中に登場する食事の再現ではなく、映画をテーマにレシピを考えるというのは面白い試みですよね。 レシピを考えていると、映画への理解が深まる気がするんです。例えば洋画の場合、まずは物語の舞台になっている国から調べるんです。今回の「ミツバチのささやき」だったら、スペインのお弁当ってどんなだろう?とか、トルティージャはボカディージョに挟むだけじゃなく単品でも食べるのか……とスペイン料理について調べました。その国の気温、匂い、街の色からアプローチして料理のイメージを作り上げるので、映画の世界をより知っていける感じがします。 ──料理にすることで映画の理解が深まるだけではなく、好きな気持ちの表現にもなるのでしょうか? そうですね。私は、映画ごはんを“食べる二次創作”だと思ってます(笑)。ファンアートとかよく見かけますけど、私は絵がそんなに上手じゃないので、どうやってこの愛を表現したらいいんだろう?というところからたどり着きました。食べれば自分の血肉になるっていうのも、うれしいポイント。おいしいとかまずいって、みんなで共有するのが楽しいし、作ったものがおなかに収まって終わるのも始末がいいなと思うんです。 ──やっぱり、おいしい料理が出てくる作品は創作意欲が湧くものですか? 台湾映画やインド映画はおいしそうな料理を食べるシーンが多いので、もちろん「いいな」と思いますが、実はそれよりも、おいしくなさそうなごはんが出てくるほうが、そそられるんですよ(笑)。例えば「チャーリーとチョコレート工場」だったら、きれいなチョコレートじゃなくて、貧しいチャーリーの家族が食べているキャベツだけのスープとか。逆にあの味が超気になる。彼らにとってはこれが日常食なんだよな……とか考えるんです。登場人物が映画の中で食べているものを、同じように食べてみたい気持ちがあるんだと思います。 ──映画ごはんを作る際に、大切にしていることを教えてください。 劇中に登場する料理を再現するときは、なるべく現地で使われている調味料や食材をそろえるようにしています。また映画をイメージした料理を作るときは、どんなビジュアルでも味はおいしくするように心がけていますね。あとは、最近だとお客さんに提供することも多いのですが、食べやすさよりも、自分の中のイメージを具現化することを優先しています。あえて野菜をでっかく置いてみたり。そっちのほうが映画のイメージに合うと思ったら、その気持ちを大事にしています。 ──こだわりが詰まった映画ごはんなんですね。今回は「映画弁当」を作っていただきましたが、今後作ってみたいなと思う作品はありますか? 最近だとアリーチェ・ロルヴァケルの「墓泥棒と失われた女神」がよかったです。食べ物のシーンはあまりないので難しそうですが、イタリアの雰囲気がビシバシ伝わる作品なので形にできたらいいなと思いました。あとはルカ・グァダニーノの「チャレンジャーズ」も面白かった! お弁当にするとしたらどうなるんだろう……。メインキャストの3人をイメージして、3つに分けて作るのもいいなと想像しています。 ■ まめごはん 1991年生まれ、福島県出身。ケータリングや卸を中心に料理関係の仕事をしている。無類の映画好きで、月に一度「映画ご飯会」を開催中。 まめごはん / yuka endo (mame__gohan) | Instagram ■ 今回お弁当になった映画について □ マッドマックス 怒りのデス・ロード 「マッドマックス サンダードーム」から約30年ぶり、2015年に発表された「マッドマックス」シリーズ4作目。資源の枯渇した近未来を舞台に、凶悪なイモータン・ジョー軍団に捕らえられた元警官マックスが、反乱を計画する女戦士フュリオサらと力を合わせ、自由を求め奮闘するさまが描かれる。監督・脚本はジョージ・ミラー。主人公マックスをトム・ハーディ、フュリオサをシャーリーズ・セロンが演じた。 □ ミツバチのささやき 1985年に日本公開された、ビクトル・エリセの長編第1作。巡回映画で「フランケンシュタイン」を観た6歳の少女アナの空想と現実の世界が描かれる。舞台は1940年頃のスペイン中部の小さな村。アナ・トレント、イザベル・テリェリア、フェルナンド・フェルナン・ゴメスらがキャストに名を連ねる。 □ TENET テネット 2020年に公開されたクリストファー・ノーランによるサスペンスアクション。特殊部隊に所属する名もなき男が、未来からやって来る敵と戦い、核戦争以上の脅威となる事態の回避を命じられることから物語が展開する。ジョン・デヴィッド・ワシントンが主演を務め、第93回アカデミー賞では視覚効果賞を受賞した。