“第２の駒田”になるのか…チームに不信感を抱き始めた槙原

　「FAを行使する、しないは本人次第。来年どう使うかを通告するなんて前例がない」 　長嶋茂雄監督の一言で、駒田徳広との“労使会談”が決裂した1993年10月30日。新たに「（巨人を）出たいわけじゃないけど、トレード候補という話なら（FA）宣言しますよ」と報道陣にブチまけたのは槙原寛己だった。 　「新聞にいろいろ書かれているし、他球団では（球団首脳とFA有資格者が）話し合いをしたところもあるのに、球団からは何も聞いていない」 　この年の槙原は桑田真澄が8勝15敗、斎藤雅樹が9勝11敗と苦しんだ中、チーム唯一の2桁勝利（13勝5敗）を挙げ、防御率もリーグ3位の2・28と孤軍奮闘。それでも毎年のようにトレード候補として名前が挙がってきたことに、不信感を抱いていたのだ。 　当時のルールは、FAを行使する選手は日本シリーズ終了後2週間以内にコミッショナー事務局へ文書で伝え、文書到着からドラフト会議後1週間までは在籍球団との交渉期間。その後、海外を含めた他球団との交渉解禁―が手続き上の手順となっていた。 　それでもオリックスが5人のFA有資格者を相手に「FA説明会」を開催すれば、日本ハムも球団代表が捕手の田村藤夫と会談し、複数年ともとれる条件を提示するなど、有力選手の流出阻止に早めの動きを見せるチームもあった。

槙原寛己と駒田徳広は仲良く肩を貸し合ってウォーミングアップ

　そうした他球団に比べ、巨人のFA有資格者への対応が槙原には冷たく映っていたのかもしれない。とはいえ、この時点ではまだどこも槙原の本心を量りあぐねていたというのが実情だった。 　そして31日には中日ナインが秋季キャンプ地の沖縄入り。日韓親善野球を控えているため、故障者以外では落合博満と日韓野球不参加の郭源治を除く総勢52選手が93年に区切りをつけ、新たに94年へと動き出した。 　「まずわれわれ首脳陣が、選手がどういうことをやりたいのかを知らなければならない。こちらのやらせたいことと、選手のやりたいことが同じであれば、練習もスムーズにいく。でも、少々違っていると、選手に理解させてやることが大事なんだ」と高木守道監督。キャンプ期間中は連日、食後には担当コーチと選手のミーティング時間を設けるという。 　寡黙で、どちらかといえばコミュニケーションを取ることを得意としない指揮官が掲げた対話路線。それは落合抜きで迎えるであろう勝負の3年目に向けた、高木の覚悟でもあったように思う。＝敬称略（館林誠）