急転直下の撤回 投資額約9000億円の計画が白紙に “注目”の半導体工場に何が?【宮城発】
産学官民問わず 高まる期待
宮城県の熱量に合わせるかのように工場の進出決定後、県内の動きも加速していた。県は発表後すぐにプロジェクトチームを立ち上げ、約1ヵ月後の12月1日には県庁内に「半導体産業振興室」を開設させた。新年度予算には早速、工場建設前に入る台湾の従業員受け入れに関する予算も盛り込んだ。県以外にも、東北大学は台湾の世界最大の半導体受託製造企業TSMCが進出した熊本県の熊本大学と連携協定を締結し、人材育成のカリキュラムを充実させた。大衡村に近い自治体もそれぞれ従業員などの受け入れに向けた準備を始め、工場への期待は高まっていた。
急転直下の撤回 知事も動揺隠せず
しかし、発表から約11ヵ月。2024年9月27日にSBIホールディングスは「PSMCからの要請に基づき共同事業を解消することになった」と公表した。PSMC側から「日本国内での半導体製造事業について対応をしていくことがPSMCとして困難になったため、計画を見送りたい」という通知を受けたという。まさに青天のへきれきだった。 取材に応じた村井知事は「知ったのはSBIが公表する少し前。北尾会長から連絡を頂いた」とし、「コンスタントに(県民総生産)10兆円を維持できるようになると考えていた。予定が狂ったと言っても過言ではない」と動揺を隠さなかった。担当課では発表の数日前にも工場建設の打ち合わせを行っていたという。
主張異なる 両社の言い分
SBIホールディングスとPSMCはそれぞれ白紙撤回の理由について宮城県に説明したが、双方の主張は異なっている。PSMC側は「日本の補助金の交付を受けるためには10年以上にわたる長期的な操業が求められるが、PSMCが工場の運営に関わり長期的な保証をした場合、台湾の法律に違反することになる」という趣旨の釈明をしたという。 PSMCとしては工場の建設、技術移転、人材訓練、運営の協力までを考えていて、あくまで運営に主体的に関わる予定はなかったということだ。一方のSBIホールディングスは「しっかりとコミットしてジョイントベンチャー(合弁企業)としてやっていただけるという考えを持っていた」と県に説明した。さらに、北尾会長は自身のSNSで「私共は日本政府からの補助金交付の条件についても先方に詳細な説明を尽くした」と経緯を説明し、「たくさん譲歩したにも関わらず、ほぼ一方的とも言える形で解消に向かわざるを得なかったケースは初めて。あまりにも不誠実な会社」と痛烈に批判した。