シャープの鴻海傘下入り決定
企業の丸ごと買収による経営再建策を協議してきたシャープと台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業が2日、大阪府堺市内の合弁工場で記者会見を開き、鴻海がシャープに3888億円を出資して買収することで合意したと発表した。戦後日本の産業界をけん引してきた大手家電メーカーが、外国企業の傘下に入るのは初めて。 シャープは鴻海から資金提供を受け、経営再建策に投入する。鴻海はシャープの商品企画力を活用し、収益性の向上を狙う。この買収契約成立に伴い、シャープは一定の経営基盤を固めることができたものの、鴻海側の経営判断で不採算部門からの撤退やさらなる人員削減などを余儀なくされる局面も予想され、予断を許さない展開が続きそうだ。 【中継】鴻海精密工業、シャープによる共同会見
戦略的提携でシャープをよみがえらせる
記者会見にはシャープの高橋興三社長、鴻海の郭台銘会長が出席。両首脳が調印書に署名して交換した。 契約によると、第三者割当による新株式発行に伴う鴻海の出資額は3888億円。シャープの収益が悪化し、内外の市況悪化も見込まれるため、シャープの企業価値が低下したとしてして、2月段階より減額された。 両社は勤勉さ、創造性、イノベーションを共通の企業文化と分析。戦略的提携により、シャープの収益性を回復し、オペレーションを強化することで、再びシャープをグローバル・エレクトロニクス産業をけん引する立場に引き上げると自信を示す。
シャープは1912年創業。早くから液晶技術に着目して独自開発に傾注。液晶テレビ「アクオス」で世界的な評価を得たものの、技術開発力への過信から、液晶事業への積極投資が裏目に出て、経営の悪化を招いた。液晶技術に代わる有望技術の確立には至っていない。2015年3月期の売上高は2兆7862億円。人員削減が進んだものの、15年12月現在で4万4000人の従業員を抱えている。 鴻海の創業は1974年。郭会長が電子機器の受託製造という新しいビジネスモデルを推進。最新鋭のスマートフォンなど、有力企業の人気機種の製造を相次ぎ手掛け、世界最大手の受託製造企業に成長。15年12期の売上高は15兆6000億円。突出した製造力や交渉力を背景に、郭会長の発言力も高まりつつある。 これまで両社の提携交渉の進展には紆余曲折があった。12年、鴻海がシャープの堺工場運営会社に出資。まもなく鴻海がシャープ本体への出資を検討したが、13年になっても出資契約が成立しなかった。 以降、シャープの経営再建が軌道に乗らない中、15年になって、郭会長が再びシャープへの出資を検討し、今年に入って、両社の交渉が本格化。業績低迷のシャープと勢い付く鴻海との間で厳しい条件闘争が続いた後、ようやく合意に達した。 かつて関西地区では、松下(現パナソニック)、三洋、シャープが家電三社が競い合って家電王国を形成。商品開発競争と販売合戦が経済界全体に刺激や活力を与えていた。 しかし、三洋がパナソニックに吸収合併され、シャープは外資の軍門に下った。生き残ったパナソニックも半ば総合家電ののれんをおろし、住宅関連や業務用需要の開拓で活路を切り開くことに懸命だ。新たな成長分野が登場しない中、鴻海シャープ丸の難産の末の船出が、関西および日本経済の混迷ぶりを象徴しているようだ。 (文責・岡村雅之/関西ライター名鑑)