プラスチック規制、産油国側「発展妨げる」と一切妥協せず…条約策定の最終会合は時間切れ
【釜山=田中洋一郎】プラスチックごみ汚染を防ごうと政府間交渉委員会が進めていた国際条約の策定作業は2日、いったん中断されることが決まった。焦点となったプラスチックを巡る規制は、各国の利害に直結するだけに溝を埋めるのが難しい。交渉は来年にも再開される見通しだが、合意に達するかは不透明な情勢だ。
韓国・釜山で開かれた最終会合は会期末の1日を迎えても議論が紛糾した。合意を取りまとめるはずだった全体会合は、開始が夜にずれ込んだうえ、2日未明まで約6時間にわたり、各国が自国の主張を延々と述べる場となった。
欧州連合(EU)の代表は、「実効性のある条約にするには、プラの生産量を抑えなければならない」と持論を展開した。
再生可能エネルギーの導入拡大など環境問題に熱心なEUは、環境規制にも積極的だ。アフリカ諸国やプラごみの海洋汚染に苦しむ島嶼(とうしょ)国とともに、プラ素材・製品の生産量について国際的な数値目標を定め、削減することを条文に盛り込むよう要求していた。健康被害の恐れがある化学物質を含むプラ製品の製造や輸出入の禁止なども求めた。
一方、産油国クウェートの代表は「プラスチックは医療分野などで世界に多大な恩恵をもたらした。プラスチックを排除しようとする試みは世界の発展を妨げる」と強調し、生産規制を求める国々をけん制した。同じく産油国のロシアやサウジアラビアなどが次々と同調した。
国際社会では気候変動対策として、温室効果ガスを大量に排出する化石燃料の削減が強く求められている。産油国にとって、石油由来のプラの生産を規制されることはさらなる経済的な打撃につながりかねず、「レッドライン(譲れない一線)」(イラン)だった。
双方の対立が深まる中、日本は産油国にも理解を示し、必ずしも削減目標を盛り込む必要はないとの考えで仲介役として交渉に臨んだ。また、中米パナマも会期終盤に「条約を締結後、締約国の会議で削減目標について話し合う」とする条文案を提案。数値目標の議論を先送りする折衷案を示し、EUを含む100か国以上の賛同を得た。
しかし、産油国側は一切妥協の姿勢を見せず、時間切れを迎えた。日本の政府関係者は「互いが一切譲らずに中断したため、このまま再開しても合意は難しい。議長にも各国にも、事前に妥協点を探る努力が求められる」と話した。