トランプ氏は一律追加関税導入のために『緊急事態宣言』を検討
議会との協議、報告が難点か
しかし、通商法に基づく追加関税のように、事前調査は求められていないことから、膨大な調査の作業をする必要がなく、迅速に追加関税を課すことが可能である。実際トランプ氏は2019年5月に、メキシコからの不法移民を問題視し、このIEEPAに基づいてメキシコからの輸入品に一律5%の関税を課す考えを示したことがある。ただし、メキシコとの間で合意がなされたことで、実施には至らなかった。 ニクソン大統領は1971年に、対敵通商法(TWEA)を利用して、国際収支の悪化を理由に米国の輸入全体に一律10%の追加関税を課したことがある。IEEPA はこのTWEAの後継法であることも、IEEPAに基づいて一律関税を課すことが可能との主張を支えている。 しかし、IEEPAを根拠とする一律追加関税にも難点がある。IEEPAは、大統領がその権限を行使する前に、議会との協議を義務付けている。議会では、民主党だけでなく共和党議員からも一律追加関税に反対する意見が出て、協議がまとまらない可能性がある。追加関税発動前には、その背景や必要性などについて議会に報告することも義務付けられている。さらに、実施後も少なくとも6か月に一回は、講じた措置について議会に報告しなければならない。 こうした条件は、トランプ氏がIEEPAを根拠として一律追加関税を導入することの障害になる可能性がある。
法律の壁を乗り越え大統領の権限が最大限発揮される手段を模索
そこでトランプ氏の補佐官らは、1930年関税法第338条の利用可能性を検討しているという。この条項は、米国との貿易で差別的な待遇をしているとみなされる国に対して、大統領が最大50%の「新たな関税または追加関税」を課すことを認めている。 トランプ氏は広範囲な国に一律関税を課し、米国の貿易赤字を縮小しようとする強い意志を持っている。法律の壁を乗り越え、大統領の権限が最大限発揮される手段を模索した上で、一律関税の導入に踏み切る可能性は高いだろう。それは、米国以外の国にとっては、輸出環境を損ねる脅威であるが、世界の貿易、経済は連動していることから、その悪影響は米国経済にも及ぶはずである。 (参考資料) 「トランプ氏、「国家経済緊急事態宣言」を検討 一律関税に向け」、2025年1月9日、CNN 「トランプ次期政権下で取られ得る関税政策(米国)」、2024年12月10日、JETRO 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/media/column/kiuchi/index.html)に掲載されたものです。
木内 登英