巨大サンゴから気候変動解明へ 東大大気海洋研 喜界島沖で発見、海流の変化分析
東京大学大気海洋研究所と同大学院総合文化研究科はこのほど、鹿児島県喜界町荒木沖のハマサンゴから採取した骨格試料を分析した結果、骨格から得られるデータが黒潮と琉球海流の変動を調べるトレーサー(追跡子)として極めて有効であることを明らかにし、アメリカ地球物理学連合(AGU)の論文誌で研究成果を発表した。同研究所の横山祐典教授は「気候変動のメカニズム解明に重要な知見を与えるデータとなる」と期待を示している。 横山教授は2009年に同町荒木沖の海中で直径約4メートル、高さ5メートルの世界最大級のハマサンゴを発見。地元では「岩ではないか」と見られていたが、推定400歳以上で今も生き続けるハマサンゴであるとわかった。 サンゴは骨格に年間約1センチメートル幅の年輪を刻みながら成長し、骨格には1~2週間ごとの過去の水温や塩分などの情報が記録される。同研究所にある日本唯一の高精度分析装置で骨格内の放射性炭素(C14)を解析すると、海洋循環や気候変動の情報を復元することができる。そのため喜界島ハマサンゴからは約400年分の黒潮や関連する海流の変化、温暖化に伴う海洋環境変動の分析に役立つデータが得られる可能性があると期待されていた。
今回の研究は横山教授と同大学院生のソウ・ウネイさんらによるグループが発表し、AGUの「グローバル・バイオジオケミカル・サイクルズ」誌に論文が掲載された。 黒潮と琉球海流の動きは、東アジアの気候変化に重要な役割を果たしており、喜界島は両海流の経路に位置することから海流変動を捉える適地にある。横山教授らはグアム、石垣島、沖縄本島の各地から報告されていた先行研究と、喜界島ハマサンゴから得られたデータを比較し、1945~2009年の期間で4地点の値に、海洋環境変動に関する明確な相関関係があることを確認。ハマサンゴが持つデータが海洋循環を捉える重要な「指標」となることを明らかにした。 人工衛星などから得られるデータは1950年代以降のもので、過去の海洋環境の分析に有効なデータは少ない。今後、喜界島ハマサンゴから1950年代以前の海流変動を分析することや、同様の分析手法を他のサンゴに用いて南西諸島の海流と地球全体の気候変動への研究が深まることが期待される。 同研究所は2021年、亜熱帯化する日本の気候変動や未来を考える「亜熱帯・KUROSHIOプロジェクト」を開始。22年には瀬戸内町に研究拠点を設置した。今月末には千葉県の同大キャンパスで古仁屋高校と与論高校、岩手県大槌高校の合同サイエンスキャンプを実施するなど、教育分野にも力を入れている。横山教授は「喜界島のハマサンゴは黒潮の力強さを語っている。人類が海に与えた影響やこの400年の変化もすべて見ていますよ」と笑顔で話した。