声のため去勢まで歌手たちの知られざる悲劇
危険を伴うだけでなく、時には死をもたらす去勢(カストレーション)では、陰茎の切除はなかったが精管の切断と睾丸の除去が行われた。公式に禁止されていたにもかかわらず、去勢は中世からずっと行われてきた。輝かしい高音を備えた男声を教会の聖歌隊に供給するためだ。17世紀にオペラが生まれると、カストラートはすぐに男性と女性の役を両方歌うことができた。人気の高いカストラートはあらゆる場所や地域でファンを驚嘆させた。
とくに有名なのが1720年にナポリでデビューしたカルロ・ブロスキだ。ファリネッリの名で活躍し、ヨーロッパ各地のオペラハウスや宮廷でカルト的な人気を得た。さらに18世紀に活躍したもう一人のカストラート、ルイージ・マルケージには非常に多くのファンがいたため、オペラハウスは彼の途方もない要求を受け入れざるを得なかった。例えば、登場する予定のない場面で、羽飾りをつけた兜をかぶり馬に乗って登場、本人が歌いたいアリアを歌う、という具合だった。
カストラートはまた、しばしば激しい性格を持つ点でもディーヴァの祖先だった。18世紀にカッファレッリの名で知られたガエターノ・マヨラーノは聴衆を魅了したが、リハーサルをさぼり、気まぐれに出演をキャンセルし、出演中に大声で他の歌手を批判し、仲間のアーティストに暴力を振るうこともあった。
アラン・ライディング/レスリー・ダントン=ダウナー/加藤 浩子(監修)