習近平の理想は強国を目指した始皇帝、台湾併合は中華統一の一環
ただし、現政権下でのこの言葉の使われ方は、多少ややこしい。当初、習近平本人が演説で言及した際には「(西側の政治制度だけが普遍的に正しいという)定於一尊になってはいけない」と、ネガティブな用法だったのだが、2018年ごろから「(習近平や党中央は)定於一尊の最高権威である」という持ち上げる文脈で、党内文献や党幹部の発言に登場するようになったからだ。 この変化については、権力を集中しすぎた習近平を遠回しに「ホメ殺し」にする目的でわざと使うようになったのか、政権内で「文革的」な気風が強まったことで始皇帝の評価が高まり用法が変わったのか、解釈が分かれるところだ。ただ、後者である可能性もある。
たとえば2020年には中国政府の海外向け雑誌『人民中国』に、「大一統」の成果として始皇帝の郡県制を称賛し、さらに「儒表法裏」(表面上は儒家だが実質は法家)という言葉を肯定的な文脈で使ったコラムが登場した。文革末期の儒法闘争を連想させる内容だ。 強大な権力が個々人を支配して「強国」を目指す法家思想を奉じた始皇帝の理想は、中国式の法治と「国家安全」を強調しつつデジタルツールを駆使して全人民を管理しようとする現代の中国共産党のもとで、最も実現に近づいているのかもしれない。
安田 峰俊 :ルポライター