春風亭一花 女性性を超越した「引き算の美学」【令和7年巳年 落語界気鋭の二つ目】
【令和7年巳年 落語界気鋭の二つ目】 春風亭一花 イキのいい二つ目がひしめきあう落語界。なかでも飛びっきりの5人を演芸評論家の渡邉寧久氏が厳選。聞いて損なし! 見て感激!未来の大名人たちよ! 【写真】古今亭志ん朝の教え「大きな噺をやりなさい。細かい笑いがなくても印象に残る」 ◇ ◇ ◇ “女優”という肩書が“俳優”と表記されることが増えてきた近年。かつてのカテゴリーの“女流落語家”という呼び方も、急激に鳴りを潜めている。もはや不要だ。 そんな現代で、女性性を軽々と超越した落語家として存在感を輝かせている若手が春風亭一花(37)。ベルベットのような滑らかな声、聞き手に決して押し付けないしゃべり口調が強力な持ち味だ。 師匠・春風亭一朝(74)ゆずりの、ほどのよい落語。ついつい目の前の笑いを取りに行きたがる加算の芸が目立つ中で、あえて引き算の美学を模索し、都度提示する。 2024年、NHK新人落語大賞では、東西の参加者130人の中を勝ち上がり6人のファイナリストとして本選に進んだ。ネタは「駆け込み寺」。大師匠の5代目春風亭柳朝師匠が得意とした噺で、縁切り寺を舞台にした噺。実生活の夫で、2025年秋に真打ち昇進が決まっている金原亭馬久(39)と一緒に、春風亭柳枝(43)の元へ稽古へ出向いたという。ちょっとしゃれが利いている(噺はハッピーエンドです)。 NHK新人落語大賞では戴冠とならなかったが、審査員5人のうち、落語家の桂文珍と柳家権太楼が10点満点をつけていたことが、実力のほどを物語る。 2014年に寄席で前座修業を始めて丸10年が過ぎた。まったく口やかましくない師匠一朝の唯一の教えは「これが私だっていう噺を見つけなさい」。「駆け込み寺」や「厩火事」「粗忽の釘」などが一花の血肉になりつつある。 (渡邉寧久/演芸評論家・エンタメライター)