自己と向き合い心身をリフレッシュする。リトリートのお供に読みたい8冊【GQ読書案内】
編集者で、書店の選書担当としても活動する贄川雪さんが、月に一度、GQ読者におすすめの本を紹介します。 【写真を見る】読むリトリートを考える
連載「GQ読書案内」は、とてもありがたいことに4年目に突入しました。毎月テーマごとにおすすめの新刊を紹介するいつものスタイルに加え、ときどき本誌の特集と連動し、お店のロングセラーや不朽のおすすめの本も紹介していきます。 『GQ JAPAN』3月号の特集は「リトリート」。自己と向きあい心身をリフレッシュする旅のスタイルとして、近年注目が集まっているそう。今月は、リトリートへ誘ってくれるようなおすすめの本を紹介します。
前を向くための退避
メイ・サートン『独り居の日記』(訳=武田尚子、みすず書房) 1960年代の後半、小説で自分の同性愛を明らかにしたメイ・サートンは、大学の職を追われてしまう。愛の関係の終焉、父親の死までも重なり、失意の底にあった彼女だったが、世間の思惑を忘れ、ひたすら自分の内部を見つめることで新しい出発をしようと、未知の田舎での生活をスタートさせる。『独り居の日記』は、そんなサートンが58歳の1年間に記したものだ。 リトリートの本来的な意味は「後退の一歩」だ。後退、撤退、隠居、避難という言葉は、ネガティブに聞こえがちである。しかし、自分を大切に扱い、心を休ませるため力を振り絞って環境を整えることは、決して後ろ向きな行為ではない。サートンはカミングアウトののち、中年を過ぎてまったく見知らぬ土地に新しく居を構え、自立した暮らしを続けた。それはいま以上に大変なことだったはず。日記には、明るく自らを鼓舞する前向きな言葉と、失望や怒りの激しい言葉とが、変わるがわる書きつづられる。日記を追うごとに、葛藤を繰り返しながらも、周囲の自然に慰められて深く内省し、心を成熟させていく一人の人間のリアルなリトリートの過程を体感できる。 「さあ始めよう、雨が降っている。(中略)何週間ぶりだろう、やっとひとりになれた。"ほんとうの生活"がまた始まる。奇妙かもしれないが、私にとっては、いま起こっていることやすでに起こったことの意味を探り、発見する、ひとりだけの時間をもたぬかぎり、友達だけではなく、情熱かけて愛している恋人さえも、ほんとうの生活ではない」。本書は冒頭から名言の宝庫だ。自分らしくあるための言葉を探しに、ぜひ読んでほしい。