自己と向き合い心身をリフレッシュする。リトリートのお供に読みたい8冊【GQ読書案内】
火を焚くという営為が持つ力
ラーシュ・ミッティング『薪を焚く』 (訳=朝田千惠、晶文社) 山尾三省『火を焚きなさい 山尾三省の詩のことば』(発行=野草社、新泉社) 週末リトリートのためのアクティビティとして本誌にも登場した「焚き火」。割った薪をくべて、火を焚くこと。それは人間にとって最も原初的で、生きるために欠かせない行為である。そして誰かと火を囲むこと、ゆらめく炎をただ見つめることで、私たちは大きく慰められる。 『薪を焚く』はノルウェーの作家ラーシュ・ミッティングさんによる、薪にまつわる知見がぎっしりと詰まった一冊。生活に薪が欠かせない北欧の気候風土やその国民文化、森の生態系、薪が私たちにもたらす価値や精神的な影響といった人類学的なパートもありながら、木の読み方や上手な薪割りの方法、薪の乾燥法、薪ストーブの種類や灰掃除の解説まで、実用性も兼ね備える。 『火を焚きなさい』は、詩人であり農業者、信仰者でもあった山尾三省の詩と散文を選りすぐったアンソロジーだ。社会運動やインド・ネパールへの旅を経て、家族とともに屋久島に移住した山尾は、そこで生涯、土地を耕し、詩を書き、祈る暮らしを続けた。「火を焚きなさい 人間の原初の火を焚きなさい やがてお前達が大きくなって 虚栄の市へと出かけて行き 必要なものと 必要でないものの見分けがつかなくなり 自分の価値を見失ってしまった時 きっとお前達は 思い出すだろう すっぽりと夜につつまれて オレンジ色の神秘の炎を見詰めた日々のことを」。詩を通して子どもたちに語りかけられた言葉は、現代の私たちの心にも響くように感じられた。
リトリートに訪れたい。ジェフリー・バワの建築
山口由美『熱帯建築家 ジェフリー・バワの冒険』(新潮社) 岩本弘光『解読 ジェフリー・バワの建築 スリランカの「アニミズム・モダン」』(彰国社) 本誌ではリトリートを愉しむための素敵な宿も数多く紹介されている。私がリトリートのための宿と聞いて思い浮かべるのは、スリランカの建築家ジェフリー・バワが設計したホテルや住宅たちだ。 『熱帯建築家 ジェフリー・バワの冒険』は、バワが設計したホテルのガイドブックだ。旅や宿をテーマに執筆活動をしている山口由美さんが、各ホテルの魅力をわかりやすく紹介する。『解読 ジェフリー・バワの建築』は、建築家の岩本弘光さんによる大著。内容は極めて詳細で専門的だが、建築写真だけでなく、バワの美しい図面もふんだんに収録されており、眺めていても楽しめる一冊である。 バワの建築は、精神的にさまざまな要素が混成・融合している。インド洋の小さな島国であるスリランカの気候や風土、イギリスの統治によって大きく影響を受けた生活や建築のスタイル、セイロンの伝統的な文化と信仰などさまざまな価値観を寛容に取り込み、それらが静かに折り重なって空間となっている。まさに、リトリートに訪れるにふさわしい場所ではないだろうか。