日本との「時差」を利用して…『寝ろ。』のキャッチコピーが話題のベンチャー企業が絶好調の意外な理由
夜に依頼すると翌朝にプレゼン用の「パワポ」ができている!
『寝ろ。』のキャッチコピーで注目を集めた「Timewitch」。 このサービスは、パワーポイントの資料作りを代行するサービスとして’21年にスタート。夜に文字情報や必要な形式をまとめて依頼すると、それをもとにパワーポイントへ落とし込み、翌朝に納品されるという内容がヒットし、資料作成代行サービスの中ではトップクラスのシェアを獲得している。 【直撃】元モー娘。とフライデーされた「IT起業家」は今こうなっていた… 多くの人が寝ている深夜帯にパワポを作成して納品する仕組みを可能にしたのは、海外に在住している日本人だ。ヨーロッパやアメリカなどの海外と日本の「時差」を利用し、現地に住んでいる日本人が現地時間の日中にタスクをこなし、日本の翌朝に納品する仕組みを作った。 利用者のメインは、営業やプレゼン、会議などで使用する資料を用意する必要がある立場の人たち。 プレゼンや会議ではグラフや画像など、視覚的に情報がわかる資料が求められることが多く、手元にあるデータをそれらに落とし込む作業がどうしても必要になる。 また、見た目を整え、人前に出すためのきれいな資料とするには、かなりの労力と時間を要することは、仕事でプレゼンや会議に携わった人にとっては実感できることだろう。その面倒な作業を引き受けてくれるのはありがたい。 まず、依頼があると、ディレクターと呼ばれる立場のスタッフが、送付された資料をとりまとめ、どのような形でパワーポイントに落とし込むかのラフを作成。それを元にWitcherと呼ばれる制作スタッフがパワポを作成し、確認・チェック専門のスタッフの校正を経て納品される仕組みになっている。 フォーマットがパワポなので、納品されてからも文字の修正や調整、画像やデータの差し替えを発注者側でできるのも利点のひとつ。 もちろん、情報漏洩の体制は徹底しており、外部に情報が漏れる心配はないとしているが、それでも情報漏洩を危惧するのであれば、ダミーのデータで発注をかけ、納品後にデータ部分だけ差し替えることも可能だ。 もちろん、資料作成代行を行うサービスはこのほかにも多くあるが、このベンチャー企業を一躍有名にしたのが前出の『寝ろ。』のキャッチコピーだ。 同社の代表取締役である岡田崇氏は、このサービスが支持されるポイントは時差を利用して“24時間仕事を回すことができる”ことだという。 「今では24時間受付をしていて、24時間以内に納品という体制をとっていますが、実際は依頼を受けてから平均6時間ほどで納品できています。 時差がないアジアにもWitcherがいるので、今では日中の対応もしています。一度でも“24時間仕事を回し続ける”体験をすると、私もそうですが、皆さん止められなくなるんですよ」 ◆「寝ている間に仕事が進んでいたらいいと思いませんか?」 Timewitchは創業から毎年、200~300%という驚異的な成長率で顧客を増やし続けている。現在、登録しているドメインは約3000社で、定期的に発注がかかるアクティブユーザーは約400社あり、そのうちの約80社が東証プライム上場企業だという。 「仕事において、パワーポイントの作成はあくまで目的を達成するための手段に過ぎません。売り上げの向上や事業の拡大といった本質的な成果に注力することが本来最も重要だと考えています。当社のサービスは、そのように本来の目標に集中したいと考える企業様に、多くご活用いただいております」 また、24時間の受付体制が整っているのも強みだ。本社は東京・渋谷にあり、そこで勤務する社員のコアタイムは9時~18時となっているが、正社員の半数はヨーロッパ、アメリカ、アジア各国に住んでいて、それぞれの地域で日中をコアタイムとして働いているため、日本からの依頼を24時間体制で受け付けることができる。 「サービスの価値って、機能的価値と情緒的価値の2つがあると思っています。当社の場合、機能的価値は『24時間以内に高品質のパワポを納品してくれる』といった点で、けっこうわかりやすいですよね。ほとんどの場合、この機能的価値を訴求すると思うんです。一般的には、『早い』『安い』『高品質』の三拍子、と言ったりしますね。ただ、この点に重点を置きすぎるとシンプルな価格競争になってしまい、我々ベンチャーは資本力のある大手企業に太刀打ちができません。 一方で感情に訴えかける情緒的価値は、資本力のないベンチャー企業であっても、アイデア次第で無限に創り出せるものであり、この価値をうまく生み出せるかどうかが、成功を左右する重要なポイントになります。 Timewitchでは、たとえば『寝ろ。』という我々の思いを表現したキャッチコピーと、『寝ている間にパワポが完成している』という実際の顧客体験が良い例ですね。これらが顧客にとっての情緒的価値として大きな差別化要因となっています」 岡田氏はレッドオーシャンとも思える資料作成代行の世界で、この感動や驚きといった“情緒面”に徹底的に訴えることで、レッドオーシャンを勝ち抜き、200~300%の成長率を実現することができたと分析している。 有り体に言ってしまえば、自分でやるには面倒臭い雑務を、寝ている間にほかの人にやってもらうというサービスだ。日中は対外的な対応に追われ、資料作成などは後回しにしがちだ。となると、作業はどうしても夜~深夜になってしまうというのが現実。その面倒ごとを引き受けるから、その間に『寝ろ。』という情緒に訴えかけるアプローチが、資料作りで疲弊したビジネスマンたちの心を揺さぶった結果、大きく成長を遂げることとなった。 ◆世界中に仕事のための「Timewitchホテル」を建てたい 現在、Timewitchでは約400人のWitcher=外部スタッフを採用している。日本企業の海外駐在員の配偶者や現地の学校に通う学生、ここで仕事をしながら世界中を旅している人など、Witcherもさまざまなバックボーンを持つ人たちだ。岡田氏はこの日本人ネットワークを活用し、将来的にはさらなる段階を見据えているという。 「現在Witcherが400人程度当社サービスに登録していますが、海外在住の日本人は全世界に100万人いるといわれています。当社が本当にやりたいことは、この100万人の海外在住の日本人総数をさらに増やすことです。そのためには日本人が海外へ行っても、安定した仕事があることが大切です。当社は、その場を提供するプラットフォーマーになりたいと考えています。 物理的なイメージ、ビジョンでいうと、海外の各地に『Timewitchホテル』のような施設を作りたいと思っています。仕事があって、医療や保育もできて、生活に必要なすべての要素がある程度満たせる環境を作りたい。そうすれば、海外移住をお試しする人が増え、結果として移住したり、海外と関わることがもっとカジュアルになる気がしてるんです。日本から海外に出ていく人たちを増やすことによって日本のグローバル化を推進して、その結果として、世界で競争力のある国にしていきたいと考えています」 現在では資料作成代行をはじめとする時差を活用したアウトソーシングプラットフォームのほか、海外のマーケットリサーチ代行、海外進出支援、現地通訳のマッチングなども行い、いずれは海外在住の日本人のコミュニティネットワークを広げていきたいという岡田氏。『寝ろ。』というキャッチコピーで産声を上げたベンチャーが、巨大な計画に向けて成長を続けている。 ▼岡田崇 株式会社Timewitch代表取締役。東京理科大学理学部物理学科卒業、フジパシフィックミュージック、面白法人カヤック、Relicを経て、’21年2月に、共同代表で幼馴染の三浦健之介氏と事業を立ち上げる。 取材・文:高橋ダイスケ
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