「バレエ」「オペラ」の灯が消える!? 東京で大ホールが休館ラッシュ…都のあきれた無理解
所管するホールの価値を知らない愚
なかでも代替が利かない東京文化会館が、同様のホールも休館する時期にぶつけるように、3年間も休館するというのは、やはり暴挙だと思う。ホールの現場は時間をかけて、良質の文化を提供する場をコツコツと整え、ホールと観客の良好な関係を築いてきた。3年近いコロナ禍のダメージは大きかったが、めげずにふたたび、その場を整備してきた。 種をまき、毎日水をやりながら、ていねいに育てるのが文化である。3年間も水をやらなければ、時間をかけて育てた苗は、生育できずに枯れてしまう。東京都生活文化スポーツ局は、首都東京の「文化」を支える組織であるはずなのに、いったいどういうつもりなのだろうか。都政に詳しい記者に聞いてみた。 「東京文化会館大ホールがバレエやオペラ、クラシックコンサートを上演するうえで、どれほど特別なホールなのか、生活文化スポーツ局の人たちは理解していないと思います。いまは2022年4月から25年度いっぱいまで江戸東京博物館が、大規模改修のために休館していますが、それが終わるので、次は東京文化会館だというだけです。でも、江戸博と東京文化会館では補い合える点はありません。彼らは、東京文化会館は数あるホールの一つくらいにしか認識しておらず、バレエやオペラにとって代替が利かない施設だという認識がありません。たしかに老朽化は放置できませんが、改修を急がないと壊れるというほどではありません。使う団体や観客にとっての会館の価値を知らないから、自分たちの都合だけで休館スケジュールを決められるのだと思います」 自分たちが所管する東京文化会館が、文化におよぼしている意味や価値を理解できれば、休館時期をほかのホールと重ならないようにする以外にも、工事は平日に行って土日は開館するなど、工夫の余地はあるはずである。むろん、欧米の劇場なども改修のために長期間閉めることはある。だが、その場合はたいてい仮設劇場をもうける。東京都にはそういう発想もない。 これが私企業であれば、収益が途絶えないように仮設ホールを設置するのではないだろうか。営利団体が運営していないことが、むしろマイナスに働いている。首都東京の文化を支えるセクションが、文化の破壊にこうも無頓着であるという事実に、怒りや悲しみを通り越して、深い諦念に襲われる。 香原斗志(かはら・とし) 音楽評論家・歴史評論家。神奈川県出身。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。著書に『カラー版 東京で見つける江戸』『教養としての日本の城』(ともに平凡社新書)。音楽、美術、建築などヨーロッパ文化にも精通し、オペラを中心としたクラシック音楽の評論活動も行っている。関連する著書に『イタリア・オペラを疑え!』(アルテスパブリッシング)など。 デイリー新潮編集部
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